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ギルドはいつになく盛況だった。収穫期前は魔物も活発になるため、さまざまな依頼が掲示板に張り出されてそれを吟味する。
「ねぇねぇ、登録は!」
「ん、ああ。あっちで受付。ここで待っておくから、一人でやってこい」
「わかった!」
ネルハが離れていくと俺の周囲を何人かの見知った顔が囲む。
「よぉ、エリク」
「なんだ。ああ、もしかしてパルハの使いか?」
「パルハは関係ねぇよ。よそ様の子供連れ込んで何してやがる?」
「あ?自分の弟子を連れて何が悪い?」
「弟子?どうみてもパルハの子供なんだが?」
「弟子に誰の親の弟子とか関係あるか?」
俺の言葉に周りから視線が厳しくなる。まぁ、確かに親の許可くらい取る方が当たり前だと思うけれど、冒険者にそんな普通なんてあっても生きる術にすらならない。
必要なのは周囲の目でもなく、当たり前のことでもなく、ただ生きたいという意志と強くなる決意。そんなものすらわからない奴らに冒険者のなんたるか?人としてどうなのだと言われても聴く耳も無い。
「あ、エリク!終わったよ?」
ネルハが戻ってくると囲っていた奴らはそそくさと消えていく。都合の悪いことは子供に聞かせたくないらしい。
「知り合い?」
「まぁ、古い知り合いかな」
「受付のお姉さんにいろいろ聞かれたんだ。エリクのこと」
「何、弟子を辞めたくなったか?」
「ううん、むしろエリクで良かった。そう思った!」
「そうかい」
なんの話を聞いたのか、かなり知りたくはあるがそれよりも実践の方が大事だ。一つ、依頼を取り受け付けに進む。
「これを頼む」
「わかりました。エリクさん、後悔は終わりましたか?」
「さぁ、どうなんだろうな。ただこれに後悔はするつもりはないな」
隣にいたネルハの頭を撫でながら受付の言葉に応えた。
依頼はすぐに終わった。むしろそのための準備に時間をかけた。必要な道具に魔物相手の情報、それを一からネルハに調べさせた。足りないところ補い万全の準備をして狩りに出た。
ネルハ想像以上に成長していた。真剣でも何度か打ち合っていたので実力は知っていたが、それを遺憾無く発揮できる心の強さも持っていた。
「すぐ終わったね」
「そうだな依頼は早い方がいい。この人数で長くやっても疲れるだけだ」
ギルドで討伐の証しを渡して依頼の金を受け取る。正直言って冒険者として給金としてまだ端金。それでも自分で稼いだ金だ。それを大事そうにネルハはぎゅっと抱きしめた。
「あ、分けた方がいい?」
「俺は見てただけだ。だからそれはお前の取り分」
「でも」
「いいからそれをどう使うか、次はそれを考えろよ?」
ネルハ悩んだあと頷いた。
「わかった」
「じゃぁ、また明日。依頼は腐るほどある。さっさと休めよ」
「うん!また明日。エリク!」
ネルハは一度振り向いて
「今日はありがと!」
そう言って駆けて行った。
次の日。俺はギルドに行く道中、昨日絡まれた昔馴染みに囲まれていた。
「何かようかい?」
「わかってるだろ。いい加減あの子から手をひけよ」
「なんでお前らにそんなことを言われないといけない?」
いい加減にしてほしいと頭をかく。こんな奴らに関わっているほど今は暇じゃない。
「パルハが泣いているからだ」
「あ?じゃぁ?あいつが?あいつの旦那は?あいつがなんで文句を言いにこない?」
「言えるわけないだろうが!お前はあいつの師匠だったろうが!」
男達の言葉に俺は首を傾げる。英雄と呼ばれるあいつらに何かを教えた事なんて殆どない、あいつらの実力が上であった期間なんてごく僅かの時間しかない。パルハの旦那なら俺なんて容赦なく切り捨てる事が可能だろう。
「それをなんで、お前らが止めに来るんだ。それこそ関係ないと思うが」
「友が泣いているのに無視なんでできるか」
囲んだ奴らが模擬刀を抜いていく