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母に理不尽に当たり散らされたことで家出した私は――見知らぬ世界に転移しました!?  作者: 四季


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6話「戻る」

 トウロウに連れられて、アカリたちがいる建物へと戻る。トウロウが入り口の扉を開けた瞬間、アカリが駆けてきた。飛び出した私を心配してくれていたのかもしれない。


「大丈夫だったのかい!?」

「は、はい……。いきなり出ていったりして、すみませんでした……」


 私はそれからアカリに謝罪した。

 彼女が求めてきたからではない、私が申し訳なかったと思ったからだ。


「案の定、ネズミの野郎に襲われかけてましたよー」


 トウロウはさらりとそんなことを言った。

 彼には躊躇いなんて欠片ほども存在しなかった。当人である私への遠慮や配慮もほとんどない。


「そっ、そうなのかい!?」

「危なかったですよー。ま、セーフでしたけど」


 アカリとトウロウの会話が始まった。

 二人は、私のことなど気にかけず、言葉を交わすことを続ける。


「大丈夫だったのかい?」

「はい。僕が殴って倒したんでー」

「そ、そうかい。無事なら良かったけどさ」

「危なかったですよー」

「だねぇ……って、そうじゃないっ! そもそもは、アンタがあんな心ないことを言ったからだよ?」


 そこまで言って、アカリがこちらへ視線を向けてくる。

 鋭い瞳には色気がある。目つき、瞳、そのすべてから大人びた雰囲気が漂っていた。彼女の頭部は人の形ではないというのに、これまで出会った誰よりも魅力的だ。


「で、マコトはどうなんだい? このお客とはやっぱり関わりたくないかい?」

「アカリさん、僕の名前は『このお客』じゃないですよー」

「アンタはちょっと黙ってな! 今はマコトと話をしてるんだよ」


 アカリに見つめられると、何も言えなくなってしまう。


 まるで、恋に落ちたかのよう。


「あ……そ、その……」

「そりゃ何だい? 曖昧だねぇ」

「少し、なら……過ごしてみても、構いません……」


 数秒の沈黙の後、私はようやく答えを述べることができた。


「本当かい!」

「は、はい。たいしたことはできないですけど」


 トウロウのことは今でもあまり好きではない。第一印象が悪く、物言いがはっきりしすぎているし、いつ何時も遠慮がないから、良い関係を築けそうな気がしないのだ。ただ、苦手そうだからといってばっさり断るのもアカリに申し訳ない気がしてしまうところもあって。だから私は、トウロウと少しだけ関わってみようと思ったのだ。


「だそうだよ!」

「わーい」

「アンタ、何だい!? その棒読みは!?」

「何って……喜んでみたんですよ。わーい、と」


 こうして私はトウロウと交流することになった。


 それにしても、私はいつになったら元の世界に帰ることができるのだろう? 祖母も帰ってきていたのだから、私もいつかは帰ることができるのだろう。でも、それがいつになるのかは分からない。誰かにプロポーズされれば戻れるのか? それとも、何か別の鍵となるものがある? この世界のことはまだ掴みきれない。が、祖母の例で考えれば、プロポーズされる必要がありそうな気もする。彼女が団子屋のヤギにプロポーズされたということが事実なのであれば、だが。



 夜の和室は静かだ。

 柱が木でできているからか、木々の多い場所にいるかのような匂いを感じる。畳に触れている足の裏は微かに湿り気を感じて。和室ならではの落ち着いた雰囲気が室内を満たしている。


 部屋の中にいるのは、私とトウロウ。


 今は二人きりだ。


 私はまだアカリが貸してくれた服のまま。帯のような部分が腹を圧迫し、心なしか息がしづらい。腹式呼吸ではないので呼吸への影響腹は大きくないはずなのだが、腹部の圧迫というのは案外気になるものだ。


 トウロウは窓辺に座り、暗くなった空をぼんやりと見上げている。

 私はいつになく着飾った状態のまま、部屋の隅に座っている。


 段々「私は一体何をしているのだろう?」と思ってきた。二人でいるのに会話がないから、ただ黙っているだけの会のようになってしまっている。二人でこの部屋に入ってから、ずっとこんな調子だ。


 私が好みでないからか――そんな風に思っていると。


「マコトさん、どうしてそんなに黙っているんですか」


 いきなりトウロウが話しかけてきた。

 しかも疑問形。


「好みでないとのことでしたので、迷惑をかけないようにと!」


 私はやや不機嫌なニュアンスで答えた。

 なぜ当たり前のように「なぜ黙っているのか?」なんて聞けるのか。黙っているのは私だけではないだろう。彼だって黙っているではないか。


「……怒ってるんですか?」

「黙っていたのは私だけではないでしょう」

「ま、そうですけど。で、それを怒って? 意外と心が狭いんですねー」

「失礼ですよ!」


 あぁ、やっぱり駄目だ。

 改めてそう感じた。

 危ないところを助けてもらったことには感謝しているが、彼のことを好きにはなれない。


「ごめんなさい。でも僕、本心しか言えないんで」

「……そうなんですか?」

「嘘をつく必要性が感じられないんですよねー。自分を偽るとか、馬鹿らしいです」


 正直であることは悪いことではない。わざわざ嘘をつけとは言わない。でも、他人への配慮というものは、ある程度必要なものなのではないのか。嘘をつくということと他者を思いやるということは同義ではないはずだ。


「異常なまでの正直者、という感じですね」

「あーはい。そんな感じです」


 私たちは離れている。同じ部屋の中にいて距離がこんなにも離れているのは、心が離れているからなのだろうか。普通なら、話すにしてももう少し接近しそうなものなのだが。


「あ、でも、その服は似合ってますよ」

「本当ですか……!?」

「疑ってるんですか、面倒臭いですね。僕は嘘はつかないです」

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