21話「贈り物は」(1)
私はアカリやマッチャと共にトウロウが返ってくるのを待つ。
その間、客が少ないからか、アカリは寛いでいた。また、私に一杯のお茶を用意してくれたりもした。緑茶のような味わいの温かいお茶はとても美味。甘さはないが心地よく飲むことができた。
ちなみに、マッチャはその間も清掃を継続していた。
机や多くの人が触れるところを布巾で拭ったり、ホウキを使って床のホコリを集めたり、そういうことをしていたみたいだ。
「どうだい? そのお茶の味は」
「あ……とても美味しいです。大人びた味ですね」
「嫌ではなかったかい」
「はい。ちょっとした渋さが……心地よかったです」
今日は妙に人が少ない。誰も入ってこないので、とても静かだ。けれども、それが心地よくもある。知り合いだけしかいない空間で過ごせるというのは精神的な負担がかなり小さくなる。快適だ。
「トウロウさんは……大丈夫でしょうか」
温かいお茶が口腔内の入り込むと、口腔内が浄化されたかのような心地よさを感じる――これは「何口目であっても」だ。
飲み始めた頃は「最初のうちだけかな?」と思っていた。けれども、この何とも言えぬ心地よさは、実際には何度でも繰り返されるものだった。
「大丈夫だとは思うよ? あれでも男だしね」
「そうですよね……やっぱり、信じて待たないと!」
せっかく良い方向に進み始めたというのに、いつまでも心配ばかりしているわけにはいかない。
前へ進むという行為は、どうしても恐怖感も感じるもの。それでも、そこを乗り越えなければ、先へと行くことはできない。今のこの感情に折られているようでは、何一つできはしないのだ。
進むときこそ強く!
迷いは投げ捨てて!
――そのくらいの覚悟を持ててこそ、道は拓かれる。
「ただいま戻りましたー」
トウロウが出ていってからどのくらいが経っただろう。それすら分からないくらい時間が経過した後、彼は長方形の紙袋をぶら下げて家へと帰ってきた。
相変わらずだるそうな口調。
けれども、その表情は少し嬉しそうにも見える。
紙袋は、白地に桃色の可憐な小花がプリントされたもので、女性向けといった印象を受けるデザインだ。
「あぁアンタ! 帰ってきたのかい!」
宿屋へ戻ってきたトウロウに一番に声をかけたのは、洗い終えた湯呑みを拭いていたアカリ。
一応私も気づいてはいたのだが、素早く声を発することはできなかった。
「はいー。戻りましたよ」
「そりゃあ良かった。で、何か買えたのかい?」
「はい、買えました。マコトさんが好きそうなものです」
そんなことを言いつつ、トウロウは私の方へと近づいてくる。
一歩、一歩、彼が近づくたび心が揺れる気がした。
意識し過ぎと言われればそれまで。第三者から見れば、この程度のことに心を揺らしているなんてただの愚か者なのかもしれない。でも、それでも、私の心臓は跳ねることを止めないのだ。
「マコトさん、買ってきましたよー」
「えっ。あ……は、はい。何を買いましたか?」
するとトウロウは、片手で持った紙袋を、そのままの状態で差し出してきた。
どうやら、中の物を開けて見せてはくれないらしい。
トウロウはそこまで親切ではない。それは当たり前といえば当たり前のことだが、少し期待してしまっていただけに何とも言えぬ気分だ。
「どうぞ。このまま渡しますから、開けてみて下さい」
「そ、そうですね……」




