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母に理不尽に当たり散らされたことで家出した私は――見知らぬ世界に転移しました!?  作者: 四季


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18話「決めました」(1)

 先生と暫し言葉を交わした後、私たちはトウロウがいるという入院患者のための部屋へと向かった。

 そこは小さい部屋だった。布団を一人分敷いたらもう何も置けないくらいの狭い和室。白い布団が敷かれていて、トウロウはそこに寝ていた。


「トウロウさん!」


 私は思わず駆け出してしまった。

 彼が生きていることを、どうしてもこの目で確認したくて。


「んー……もう少し寝せて……下さいよぅ……」


 駆け寄った私は、横たわっているトウロウを視界に入れることができた。また、彼は眠っているようだが喋った。それによって、会話もできる状態であることを確認。


 安堵したせいか、一気に体から力が抜けていく。

 その場でしゃがみ込んでしまった。


「あぁ……良かった……」


 トウロウが生きていたことが、なぜここまで嬉しいのだろう。私は今、どうしてこんなに安堵しているのか。あぁ、でも、今はそんなことはどうでもいいような気しかしない。


 彼が生きてくれれば、それで何もかもすべてが解決する――そんな気さえしてくる。


「だ、大丈夫なのかい? マコト」


 急にへたり込んだものだから、アカリを心配させてしまったみたいだ。

 余計な心配をさせてしまうのは申し訳ない。


「ホッとして……それで……」

「あぁ、そうだったのかい! ならまぁいいけどね」


 トウロウはまだ寝ている。布団にすっぽり入り込み、穏やかな寝息を立てていた。表情にも歪さはない。幼い頃の幸せな夢でも見ているかのような、幸福感漂う寝顔だ。ただ、先ほど声を漏らしたのは寝惚けての行動だったらしい。というのも、今はまたすっかり眠りに落ちてしまっているのだ。目覚めているようには見えない。


「トウロウのやつ、また寝ちまったみたいだね」

「はい。……帰った方が良いですかね?」

「いいや、もう少し待っていてもいいと思うよ。まぁ、マコトが帰りたいってんなら、帰ればいいともおもうけどねぇ」


 気持ちよく寝ているトウロウを無理に起こすなんてことはできそうになかった。

 せっかく快適に寝ることができているのだ、それを邪魔する権利は私にはない。

 とはいえ「これからどうしよう?」という疑問が残る。見舞いの者がいつまでもここにいて良いのか、少々不安になってしまう。


「どうする? マコト」

「起きるまで待ちたいですけど……迷惑かもしれないですよね」

「そんなことはないと思うけど?」

「でも、見舞い客がいつまでも居座っていたら、鬱陶しく思われませんか?」


 一番の解決方法は、トウロウを起こすことなとかもしれない。けれども、申し訳なさすぎてそんなことはできない。せっかくの良質な眠りを台無しにするなんて。


「一旦帰ってまた来るかい? 何なら、起きたら連絡するよう頼んどくけど」

「え。でも……それはそれで、ややこしいのでは……」

「あぁもう! 一体何なんだい!!」


 怒らせるつもりはなかったのだが、私の態度はアカリを苛立たせてしまったようだ。

 アカリの声が一段と強く鋭いものに変わった。


「マコトはいちいちウジウジし過ぎだよ!」

「ご、ごめんなさい……」


 どうすればいいの。どうすれば良かったの。人の世では控えめにしていれば厄介ごとに巻き込まれずに済んだのに、ここではそうじゃない。でも、私はただ控えめにしていることしかできないのよ。今までずっとそうやって生きてきたから。それ以外の生き方なんて知らない。分からないの。


 そんな風に、生産性のないことをぐるぐる考えることしかできない。

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