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母に理不尽に当たり散らされたことで家出した私は――見知らぬ世界に転移しました!?  作者: 四季


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14話「素直に?」

 ちょっとおかしなことを口走ってしまっただけなのに、こんなに大笑いするなんて理解できない! 酷いわ。私だって、自分の発言に突っ込みどころがあったことには気づいてる。でも、だからって、そんなに笑わなくていいじゃない。多少触れるくらいなら気にしないけれど、ここまで長い時間笑われたら、さすがに傷つくわ!


 ――私は密かにそんなことを思っていた。


 そして今、私はトウロウがいるのとは真逆の方向へ体を向けて正座している。

 わざわざそんなことをしたのは、向き合いたくない気分だったから。


「マコトさん、いい加減機嫌直して下さいよー」


 トウロウは視線を向けられるように色々な方法で声をかけてくる。けれども今は、彼の方を見たりはしない。本気で怒っていると知らしめるための行動だ。


「怒ってますから!」


 私は思いきってはっきりと述べる。


 人の世界にいた頃は、意見をはっきり言うタイプではなかったかもしれない。喧嘩が嫌いだったから、他人を刺激しないよう考えつつ過ごしていた。

 でも今は、もう、心を隠して生きていくつもりはない。

 トウロウは正直だ。だから私も自分に正直になって生きる。そうしなくては、他者に遠慮しないトウロウとはやっていけない気がするから。


「ごめんなさいって言ってるじゃないですかー。それに、べつに馬鹿にしていたわけじゃないんです」


 現在は珍しく私のペースだ。

 でもこれでいい。

 私ばかりが遠慮する必要なんてないのだから。


「話しかけないで下さい!」

「えぇー。さすがに酷いですよ、それは」

「トウロウさんはいつも正直ですよね。それを見習うことにしたんです」

「うわーそれは辛いー」


 こんなことをするためにここへ来たわけではないのになぁ――実はそんなことを思ってはいる。


「でもまぁ、そうですよね。マコトさんも自分に正直に生きた方が良いと思いますよー。その方が楽ですし」


 トウロウの言葉に、私は心を揺らされた。


 楽に生きても良いのか?

 もしかして、楽な道を選んでも彼は私を許してくれるのか?


 薄暗い室内で様々な思いが脳を巡る。


「……いいと思いますか?」


 私は何もいない天井へ視線を注ぎ、呟くように尋ねた。

 トウロウの方は見ない。

 彼の顔を、その目を見たら、言葉を詰まらせてしまうような気がする。それが不安で、私は彼を見ることはできない。


「え。何の質問ですか、いきなり」

「トウロウさんは、自由に生きても良いと思いますか……?」


 私の問いを聞いたトウロウは、のんびりした雰囲気で「あぁそういうことでしたかー」と述べる。それから数秒間を空けて、言葉を続ける。


「まぁこれは僕の意見なんですけど、好きなように生きれば良いと思いますよー。だってほら、自分の人生じゃないですか」


 トウロウの言葉が、今は妙に心に沁みる気がした。嬉しいような、そうではないような、そんな曖昧な気持ち。でも、嫌かと問われれば頷きはしないだろう。


 一人ほっこりしていた時。


 ふと、耳に何かの音が届いたのを感じる。


「えっ……?」


 私は思わずそんな声を漏らしてしまう。

 近くにいたトウロウはそれを聞き逃しはしない。


「どうしました」

「今……何か、音がしませんでしたか……?」

「音? 特には聞こえませんでしたけど」

「そ、そう……ですよね。気のせ――」


 言いかけた時、廊下と部屋を繋いでいる扉が乱暴な音を立てて開いた。さらに、足音が続く。そして数秒、私の視界に見知らぬ者が入る。突如現れた不審者は、ネズミの頭部を持っていた。


 ネズミの頭部を持つ者。

 それは以前目にしたことがある。

 確か、あれはまだ、この世界に慣れる前のこと。感情的になり飛び出した時に絡んできたのが、ネズミ風な容姿の持ち主だった。あの時はトウロウが助けに来てくれたから良かったが、かなりひやりとした。


「ネズミ!」


 反射的に叫んでしまった。


「人の子がいるのはココかぁ!!」


 ネズミ頭の侵入者はどす黒い声で叫ぶ。


「トウロウさんどうします!?」

「……うわぁー、面倒ですね」

「面倒とか言ってる場合じゃないですよ!」


 ネズミの頭部を持つ侵入者は、よく見ると妙な格好をしている。上半身には浴衣のような衣服を着用しているが、その丈は腰の辺りまで。そして、下半身には、レギンスのようなものを穿いている。ちなみに、そのレギンスのようなものは灰色。ネズミだけに、だろうか。


 ……いや、『ネズミだけに』なんて冗談を言っている場合ではない。


 そんな余裕は今の私たちにはないのだ。なんせ、目の前に不審者がいるのだから。まずは目の前の者をどうにかしなくてはならない。


「あのー。何か用ですかね? そうでないなら、騒がないでほしいんですけど」


 トウロウは意外と動揺していなかった。私とは大違い。このような予想外でしかない展開にも、冷静に対処しようとしている。


「テメェは黙ってろ!」

「それは無理です。この部屋、僕が借りてる部屋なんで」


 刹那、ネズミ風の容姿の男性は刃物を取り出した。

 銀色の刃が闇の中で不気味に煌めく。


「なんならコレで刺しても良いんだぜぇ?」

「刃物を取り出すなんて、面倒なので止めて下さい。みっともないですよ」

「アァ!?」

「丸腰の者に武器を持って迫るとか、どうかしてますよ」


 トウロウは冷静だ。ただ、言葉選びはどうしても挑発的なものになってしまう。トウロウの性格なので仕方がない部分もあるのだが、今は一番するべきでない行動である。武装している者に向けて挑発的な言葉を放つことほど危険なことはない。


「さっさと人の子渡せやァ!」


 とても品の悪いネズミ男だ。見ているだけでげんなりしてしまう。


「それは無理ですー」

「アァ!? テメェに拒否権があると思うたら間違いやぞ!?」

「そもそも、人の子なんて手に入れてどうするつもりなんですかねー」

「あ? ブゥエッファ! アホやろ、売り飛ばすんや!」


 笑い方のクセが強かった。が、こういう時は絶対そこに触れてはならない。相手を爆発させるのはリスクが高すぎる。


「売り飛ばす予定な時点で、引き渡しは拒否します」

「言うたやろ! 拒否権はないて!」

「言っておきますけど、人の子は物じゃないんで。申し訳ないですけど、簡単には渡せません」

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