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母に理不尽に当たり散らされたことで家出した私は――見知らぬ世界に転移しました!?  作者: 四季


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12話「続く会話」(2)

「……本当に、人間になりたいのですか」


 手を差し伸べたい。


 その思いは偽物ではない。


 こんな何でもない私にでも、誰かのためにできることがあるのだとしたら。そのためになら、時間も使いたいし、努力もしたい。


 ただ、人生すべてを捧げられるかとなると話は別。

 そこまで思いきったことをする勇気は私にはない。


「僕、嘘はつきませんよ」


 トウロウは真剣な面持ちのまま述べる。


 確かにそうだろう。それは私も嫌になるくらい知っていることだ。もっとも「ならなぜ本当かどうかなんて尋ねたのか」という話だが。そこは単なる思いつき。正直、深い意味があっての確認ではなかった。


「そうでしょうね。いきなり他人の容姿にいちゃもんつけるぐらいですから……」

「あぁ、もう、それは忘れて下さいよ」

「忘れられるわけがありません! いきなりあんな失礼なことを言われて」

「本当にすみませんでした」


 トウロウのことだ、またひねりを利かせた発言をしてくるだろうと予想していた。けれども、その予想は見事なまでに外れた。トウロウが発したのは、極めてシンプルな謝罪の言葉だったのだ。


 こんな形で謝られることになるとは夢にも思わなかった。


「あ、あの……冗談です。もう怒っていません」


 私はあくまで冗談半分で言ったつもりだった。けれどもその意図は上手く伝わらなかったようで、謝罪させてしまう結果となった。そのことに大きな罪悪感があって、どう言葉を述べれば良いのか迷ってしまう。


「冗談? ……マコトさんが冗談ですか」

「お、おかしかったですか!?」

「いえ。真剣に言っているように見えたので、冗談が下手だなと」

「地味に酷いですよ!」

「それはすみません。でも僕、嘘はつきませんので」


 時と場合によっては嘘をついた方が良い時もあるから……。


 嘘をつけないというところがトウロウの長所であり短所でもある。常に嘘で塗り固めている人と関わるより関わりやすい気もするけれど、その酷さに胸が痛くなってしまう時もあって。


「とにかく考えてほしいです」

「えっと……」

「僕を夫にして、人間にならせて下さい」

「急過ぎます!」

「おかしいですね。以前から話していたはずですが」


 それはそうだけども! 夫にして、なんて言葉が出てきたら! なかなか冷静ではいられない!


「それって……結婚することを考えるということ、ですよね……?」

「はい」

「考える時間が必要です……」

「マコトさんは、思考時間が妙に長いですね」

「また嫌みですか!?」


 ここへ来て、またしても嫌みのようなことを言い出すトウロウ。

 彼は本当に予想通りの行動をしない。


「誤解です。別に嫌がらせで言ったわけではありません」

「でも……ちょっと嫌みに聞こえましたよ?」

「だったらすみません。でも、本当にそういうのではないですから。気にしないで下さい」


 トウロウとの会話には終わりどころがない。それゆえ、自然と話が続いてしまう。仲を深めるという意味では、話が続くこと自体に問題はないのだろう。ただ、終わりどころが掴めない会話というのは、どうも難しさを感じずにはいられない。


「えっと……その、もう少し考える時間をいただいても問題ないですか?」

「あぁ、はい。もちろんです。お世話になるのはこっちなんで、急がせたりはしません」

「ありがとうございます」


 人生のことに関しては、もう少し考えてみよう。


 私は密かに思うのだった。

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