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母に理不尽に当たり散らされたことで家出した私は――見知らぬ世界に転移しました!?  作者: 四季


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12話「続く会話」(1)

 トウロウからすれば、かつて私がいた人間の世界の方が良さそうに見えるのかもしれない。それは理解できないことではなかった。私だって、こちらの世界の方が良さそうと思っているから。


 けれどもそれは、所詮、ただの憧れに過ぎない。


 知らぬものの方が良く思えるという心理。それ以外の何物でもないのだ。


 私自身にもそういう思いがある。人の世とは違う世の方が良く見える。それゆえ、トウロウの気持ちも理解できないではない。が、それと同時に、彼の気持ちが憧れでしかないことも分かってしまう。


「多分、こちらの世界の方が自由ですよ。やろうと思えば何でもできそうですし」


 この世界のことを詳しく知らない私がこんなことを言っても良いのだろうか。

 そんなことを思いつつも、私は言葉を発した。


「……ここはそんな良い世界じゃないですよ」


 トウロウは溜め息混じりに言葉を返してくる。

 本は手に持ったままだ。


「私からすれば、人間の世界よりこの世界の方がずっと良いものに思えます」

「人間の世界も苦労があるーってことですね」

「はい。面倒なことも理不尽なことも……たくさんあります」

「ま、そうですよね。結局どこへ行っても面倒は尽きないってことですかねー」


 開いた本へ視線を向けつつだるそうに述べるトウロウ。その横顔を見て、私は、一種の寂しさのようなものを感じた。彼はいつも冷静で強いように見せかけているが、案外そうではないのかもしれない――なぜかそんなことを思ってしまう。


 私には特別な力はない。私はただの平民。個性も、才能も、権力も、何も手にしていない。

 けれども、トウロウの望みを叶えることはできるかもしれない。

 私が心を決めれば、決意すれば、彼の夢は叶うだろう。この手で、彼を望む場所へと連れてゆくことができる。


「でも! それでも人間目指しますよ!」

「えっ。そうなんですか」

「……マコトさん、僕のことナマケモノか何かと勘違いしてません?」


 まだ十代。高校生。これから先、夢を抱くこともあるだろう。これから出会うものだってあるだろうし、したいことも生まれてくるはず。その時に後悔するかもしれないような選択はしたくない。


「ところでマコトさん。ちょっといいですかね」


 トウロウは持っていた本を床に置く。

 そして、体の前面を、私の方へと向けてきた。


「は……はい。もちろん」


 頷きつつ、私は彼へと視線を向ける。

 そして驚いた。

 トウロウがいつになく真剣な表情でこちらを見つめていたから。


「僕を人間にしてくれませんか」


 距離はある。お互い、触れられる距離にはいない。それゆえ恐怖はなかった。が、トウロウに真剣な目をされるというのはどうもしっくりこない。

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