第一話
見切り発車です!
がきゃん!すらぁ・・・・きん!
様々な金属音が響くのは大きな屋敷。
ここはロゼリア辺境伯家の鍛錬場。
若い男女が剣を交えている。
「そら!どうした!?防御が疎かだぞ!しっかりと受け止めて踏ん張れ!反撃をしろ!」
「はい、お兄様」
あたりには先程までとは打って変わって受け流すための鈴のような静かな音が減った。
その代わりにガキン!という重たい音が増えた。
「ふっ!」
がん!と鈍い音をたてて少女が持っていたやや細身の剣が折れる。
「勝負あったな。まだまだだ。精進が足らん」
「はい、お兄様。ありがとうございました」
確かに見た目の決着は男・・・・・兄の方に勝ちの目があった。
だが汗だくで息もたえだえの男と多少の汗は流しても息を切らせていない少女では、果たしてどちらが本当の勝者なのか。
また兄に言われてから少女の動きは明らかに違っていた。突然言われたことを実行しようと躍起になるような。氷のような剣技が無理矢理に炎の剣技に変わったような。そんな、違和感。
事実、少女にとって兄から言われるアドバイスは兄の剣に由来するものであり、少女にとっては異質なものだ。
もし仮に本気で兄と立ち会った場合、少女は傷を負うこともなく息すらきらせずに勝つことだろう。
それがロゼリア辺境伯家長女、スノウ・ロゼリアの誰も知ることのない秘密である。