第九話
落ちていた石を投げて、地面に落ちたらスタート。ということで合意する。一応投げるタイミングだけはカウントすることにした。
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誰もいない壁際に軽く投げ、両手で剣を構える。
一応立ち会い練習ということで互いに鞘は着けたままだ。
ミコト様の剣は曲剣だった。ならば抜刀術のような技があるのだろうが、あえてそれについて言及はなかった。
ミコト様は上段構え。私は切っ先を地面すれすれに下げた構え。ミコト様は恐らく先の先を取る。私は逆に剣の質量と膂力頼みでミコト様の剣を巻き込み弾き飛ばす後の先取りの構えだ。
だが、そこまではお互いに構えを見れば分かる。
そこから先の戦術の組み立て。実際の剣技の腕前。反射神経や動体視力。
持てる力の全て。
なぜかここで試してみたいと思った。
私は身体が鈍っていたのに。ミコト様は剣舞を終えて疲れているはずなのに。
とす。と軽い音をたてて石が地面に落ちた。
ミコト様はやはり切り下ろす構え。それを迎撃する。
と思った刹那。ミコト様がズレた。
半歩分横に移動し、半身になり私の剣を回避する。
髪には掠ったがそんなもの実戦ではなんの意味もない。
ミコト様の上段がくる。斬り上げてしまった私は、そのまま斬り下ろし、タイミングを合わせて受け止める。
そこから先はよく覚えていない。記憶はあるが明確ではない、が正しいか。
気付けばシャリンという鈴の音のような音をたててミコト様の剣舞に巻き込まれていた。
互いに決定打はなく。打撲などもない。
そこで終わりにすることにした。
きん!と音を出して大きく離れる。
「陽が傾いてきました。ここまでにいたしましょう」
「そうですわね。楽しいひと時でした」
硬く握手を交わし、寮の自室へと入っていった。