第1話
「これでいいのかな...?」
川辺の少し冷たい風に吹かれながら、ネットで見た知識を頼りにそこら辺で拾った薪を積み重ねていく。本当は縄文人みたいに枝を擦って火を起こしてみたいところだが、もう日は落ちてきているし早めに明かりを確保しておきたい。
少し小腹が空いているが、今すぐに何か食べないと行けない程の空腹感は感じない。何かあった時のためにも、出来るだけ食料は節約しておこう。
早速火を点けようと、リュックサックのポケットからコンビニで拾ってきたライターを取り出す。
「...松ぼっくりがいいんだっけか」
昔アニメで見たことを思い出しながら辺りをキョロキョロと見回した。
-が、都合良く河原に松ぼっくりが落ちている訳もなく。
再びリュックサックから手探りで何か燃えやすそうな物探す。指先にペラペラとしたメモ帳が触れ、それを掴んで引っ張り出した。
「あー、これは燃やせないなぁ」
適当に引っ張り出したそれは、これからの生活で何よりも大切なものだった。
-"終末野心手帳"。
手書きの文字でそう書かれた、何の変哲もない手のひらサイズの手帳。
ぱらぱらと捲るだけでも、中はびっしりと書き込まれているのが分かる。
「なんか良いこと書いてないか〜?」
座りやすそうな石に腰かけ、俺はその手帳をぱらぱらと眺めた。
そして、その中の1ページが俺の目にとまった。
『 フェザースティックを作る!』
少し大きく書かれたその文字の下には、そのフェザースティックとやらを作るのに必要な手順が手描きのイラストとともに丁寧に記されていた。
「よしっ、これやろう」
日がもう沈み始めている。
あまり遠くには行けないな。
俺は早速手帳に記されている材料集めに向かうのだった。
俺がこんな生活を始めたのはつい最近の事だ。
去年から社会人として働き始め、1年目ながらもようやく社会の歯車としての生活に慣れてきた頃だった。
数年前から世間を騒がせていた感染症対策について、ついに政府が匙を投げた。
その感染症の名前はたしか-"狂人病"とかってニュースでは言ってたっけ。具体的な症状はずっと伏せられていて、とにかく感染対策をしてくださいって毎日テレビで報道されていた。
政府の発表がされてからはあっという間だった。要は今まで医療施設やホテルなんかに厳重に隔離されていた感染者が病床の数を大きく上回ったってことらしい。あとは隔離していた施設が感染者のせいで崩壊したとか。
まぁ色々な理由が重なって手に負えなくなったってことだな。
もちろん大変な事だな〜とはみんな思ったさ。それでも休めないのが社会人って生き物だよな。一応マスクなんかしたりして、消毒なんかしたりして、みんな今まで通りの日常を過ごしてた。
自分達の目の前に感染者が現れるまでは。