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03 脱出?

「うるさいな。いちいち騒がないでよ。ムカデなんて体重かけて踏みつけちゃえば一発で仕留められるでしょ」

「は、うそだろ。お前」

 彬人がずささっと翡翠から距離をとる。この男結構チキンだ。


「とりあえず、行くよ」

 そういって翡翠は彬人を促すように、前人未到の道なき道を指さした。


「え? 俺先頭なの? 発案者お前なのに?」

「あんた、もて男のくせに、私の後について来ようとしていたの?」

「そういうところだけ、女を盾に持ってくるってずるくないか? てか、もてるの関係なくね?」

 二股男らしいくず発言だ。


「そういうあんたは私の後ろに隠れてうれしいの?」

 翡翠が軽蔑のまなざしを向ける。


「わかったよ。行きゃあいんだろ。その代わり迷子になったからって俺のせいにするなよ」

 意外に単純な男だ。

「そこらへんは大丈夫。失敗したら、先頭交代するだけだから。それでもだめなら別行動で」


 そして歩くこと半時間、同じところを回るという状況は打開できたようだ。

 が、雨がぽつりぽつりと落ちてきた。


「この状況最悪なんだけど、雑木林ここまで広かったっけ」

 翡翠はじめじめとした環境にうんざりとしてきた。時々羽虫の大群に襲われる。


「そんなバカなことあるわけないだろ」

 疲れもあってかお互いとげとげしい雰囲気で会話をしながら歩く。

 

 木々が密生していてそれほど気にならないが、雨は本降りになってきたようだ。それに先ほどから前を行く彬人の右肩に糸くずのようにしゃくとり虫がいて、頭には大きな蛾がリボンのように止まっている。が、それは見なかったことにする。



 ふと光を感じ顔を上げると、唐突に雑木林がおわりをつげ一気に視界が開けた。そのせいか、いきなり雨が体を打ち付ける。


「やばっ、これゲリラ豪雨か?」

 いやそうに彬人はいうが、もう一度雑木林に戻る気はなさそうで雨に打たれている。翡翠は灰色の空のもと大雨の中で目を凝らす。草原の先に二階建ての古びて朽ちかけた洋館がけぶるように浮かび上がる。


「ねえ、あそこに家があるよ! 雨宿りしよ」

 翡翠が、洋館目指して駆け出す。


「おい、ちょっと待て、こんなとことにポツンと一軒家なんておかしいって」

「だから?」


 振り返るのも面倒で、翡翠は雨水を蹴散らしながら洋館へ向かう。彬人もあきらめたようでついてくる。

「俺はこの雑木林を時々利用する」

「それはさっき聞いたよ。頭のおかしな女をまくのにでしょ」

「だから知っているんだ。雑木林を抜けると、公園があってその先は住宅街になっている。そこから、すぐに幹線道路に出るはずだ」


「あんたさっきは『東南に抜けると』っていってたじゃん。抜ける方向が違ったんでしょ」

「まあ、この状況はそうだと思うしかないが」

「なら、そうなんでしょ」


「いや、おかしいだろ? ここは都内だ。大学の周りにマンションだってやたら立っているし、雑木林を抜けたら住宅街か道路にでるはずだろ」


「とはいっても都下でしょ? こういう場所もあるんじゃない」

 大雨で会話をかき消されそうになり、お互い怒鳴りあうように話す。


「私は、雑木林に戻るのはこりごりだし、とりあえずあの家に向かうから。あんたは好きにしたら」

 その時稲妻がピカリと光り、すぐそばで雷が落ちる大きな音がした。雷に打たれるなどごめんだ。


「うそだろ」


 ぶつくさ言いながらも彬人はついてくる。とりあえず洋館のエントランスの大きな庇の下で雨をしのぐ。ぐっしょりと濡れた服は重く不快だ。


「おい、なんだか人が住んでいるみたいだぞ」

 彬人の指さす方向を見ると、一階部分の一部屋に淡く明かりがともっている。


「みたいだね」

「ちょっと声をかけたほうがいいんじゃないのか」

「雨宿りさせてもらってますって?」

 彬人がうなずく。


「ゲリラ豪雨みたいだからすぐやむんじゃないの?」

 面倒くさそうに翡翠がいう。

「いや、声かけとけば、タオルとか貸してもらえるかもしれないじゃん」

 さっきは警戒していたのに、人が住んでいるとわかった途端に図々しい。


「じゃあ、あんたが聞いてみれば」

「ばか、俺は男だから、警戒されるだろう」

「ばかってことないでしょ? 何よ。こんな時ばっかり、男を盾にとって」


「うるさいな。どのみちここに居座って不審者通報されるのも嫌だろう」

 不承不承(ふしょうぶしょう)、翡翠はドアチャイムを探した。


「おい、ドアチャイムなんてないぞ。ノッカー式のようだ」

 いわれてみれば、立派な獅子のノッカーがオーク材のどっしりとしたドアについている。


「マジか、私これ鳴らしたことないんだけれど」

 ノッカーをたたき、声をかける。


「すみません! どなたかいらっしゃいませんか?」

 大雨に負けないように大声で怒鳴る。果たして頑丈なドアの向こうに聞こえているのだろうか。


 しばらく待つと、中から物音がしてがちゃり重々しい音を立てドアが開けられた。


「あらあら、ひどい雨ね」


 のんびりとした口調の、四十代くらいの女性が顔をだす。つややかな黒髪を持つ妖艶な熟女だ。


 彬人はぼうっとして彼女に見とれている。どうやら、好きなのは若い女性だけではないようだ。





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