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10 バズってる?

「薄情だな。あんな化け物のさばらしたらダメだろ。それにあいつを消滅させれば、俺の呪いもとけるんだろ?」

 彬人がいつになく熱く語る。


「まあ、確かに術者を殺せば理論的には解けるよね。でもまあ、カピバラになる間隔も少しずつ空いてきているからいいんじゃない」

 しょせん他人事だ。


「いやいや、俺、ずっとあんたに薬代貢がなくちゃならないじゃないか」

 確かにそのほうが翡翠の懐具合はいい。


「それに、いつまでたっても不安で女の子とつきあえないじゃないか!」

「えっ、あれ以来誰とも付き合っていないの?」

 別に彬人には興味ないので、彼に彼女がいようがいまいがチェックしていないから、知らなかった。


「当たり前だろ! いつ獣になるのかわからないんだ。そうそう気軽に付き合えるか! デート中にカピバラになったらどうするんだよ!」

「それを私にいわれてもねえ」

 翡翠のせいではない。


「だから、一緒に討伐に行こうぜ!」

「やめといたら、私たちはアイツから命からがら逃げたわけじゃない? おそらく次は」

「逃がさないってことか?」

「というより、私なら寿命が尽きるまで結界に閉じ込めるな」

「……えぐい」

「だからやめときなって、それこそあの魔女百年単位で生きているっぽいから、敵うわけないよ」

 翡翠の言葉に彬人が難しい顔をして頷く。


「ちなみに、お前は何百年生きているの?」

 とりあえず失礼なことを真顔で言う彬人に鉄拳をくらわせる。


「だがしかし、俺はこのままだと一生お前に金を払続けなければならないし、イケメンの無駄遣いだ。日本の損失だと思わないか?」

「このナルシスト、どんな誇大妄想抱いているのよ」

 やっぱり、うざい。


「それから、最近、俺に恐ろしい能力が生まれたんだ」

「は?」

 彬人に胡乱な目を向ける。だんだん会話を続けるのが面倒になってきた。


「自由にカピバラの姿になれるんだよ。まあ、人に戻るにはお前の薬の力が必要だがな」

 翡翠はガタリと椅子から立ち上がる。


「え? それめっちゃすごいんだけど。あんた祖先に人外の血が流れていたりする?」

「それは知らんが、イケメンぶりは人外だといわれる」


 キメが顔でいう彬人を思わずひっぱたきたくなるが、そこは我慢だ。確かに彼のいうことも間違っていない。美しいっちゃ美しい。それこそ今まで見たことがないくらいに。

 最高の造形にくずの魂をぶっこむとは、神はなぜこのようないたずらをしたのか。お茶目すぎるだろ。


「おかげで、子供頃からモデル事務所や俳優の事務所からスカウトがひっきりなしで」

「黙れよ」

「だが、俳優になろうにもいつあの獣になるかと思うと、恐ろしくて」

 と言って震える。そこらへんはコントロールできないらしい。


「じゃあさ、人になるの諦めて動物タレント目指したら? そのほうが実入りいいよ。カメラマンのどんな指示も聞けるし、ポーズも思いのままじゃん。超売れっ子天才動物タレント間違いなし」

 ナルシストの相手をするのも面倒くさくなり適当なことをいう。


「は? 何言ってんのお前! 人の不幸を楽しんでいるだろう」

 彬人が青筋立てて怒っている。カピバラの姿で怒るとどうなるのだろうとつい興味深くしげしげと観察してしまう。


「まさか、私そこまで性格悪くないよ」

「嘘つけ、俺といい勝負じゃねえか」


 彬人の言葉を聞いて翡翠はのけぞった。


「え? 何? びっくりなんだけど。あんた自分の性格が悪いって自覚あったの?」

「お前もかよ! って、いちいち腹立つなあ。で、何の話だっけ?」

 彬人が首をひねる。記憶力も動物並みになってきたようだ。

「さあ?」

 翡翠は面倒くさくなってきたので、そこで会話を打ち切ることにした。



 ◇◇◇



 昼休み、翡翠が混雑する大学の食堂で定食の乗ったプレートを持ち、空いている席を探していると

「翡翠! ここ空いてるからおいでよ」

 同じ学部の美佳が窓際のテーブルから手を振っている。

 

 彼女とは必修のほか自由選択科目もかぶることが多く、時々一緒に遊びに行くなかだ。


「よかった。席空いてて」

「水曜日のこの時間食堂すっごい混むよね」

「だよね」


「お、翡翠、また魚定食? 和食好きだよね。だから、スリムなんだ。私どうしても唐揚げとか食べちゃう」

「私も時々食べるよ。実家が、和食ばっかりだったらなんとなく選んじゃうんだ」

「神社だっけ?」

「うん」

「じゃあ、忙しい時期とか家の手伝いするの?」

「まあ、一応ね。巫女の真似事とかしているよ」

「いいなあ、巫女さんのバイトって憧れる」

「あはは、雑用ばっかりで結構重労働だよ。家族にこき使わてる」


 真似事ではなく、その道では有名な巫女なのだが、カミングアウトすると相談事が増えるので黙っておく。


「そういえば、この間。翡翠にお試しでもらったお茶が頭痛にきいたんだよね。あれ買いたいんだけれど」


 実は茶と言っているが薬である。しかし、薬事法だのなんだのと面倒なので、茶という名目で売っている。


「うちの神社の通販で買えるよ」

「ほんとじゃあ、そうする」


 翡翠が作ったものなので、そのまま彼女の稼ぎとなる。これでまた客が増えた。別に翡翠の実家に金がないわけではないが、彼女は小遣いは自分で稼ぐ主義だ。通学にかかる金や教科書代なども出している。


 それでも金はたまっていく。ここの大学は裕福な家の子が多いので助かる。特に彬人は上得意だ。


「そうそう、大学アカで話題でなっているんだけど、これ知ってる」


 美佳に突然見せられた写真に翡翠は口に含んだ茶を吐きだしそうになった。

 キャンパスを疾走するカピバラ。


 リツイート数がすでに数百を超えている。見る間にカウント数が増えていく。これって、ばずってる?



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