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1話 うんち豚と少女

この作品には虐待描写、汚物描写、人体改造、性的暴行の示唆等があるのでご注意ください。

(一応ガイドラインの範疇には抑えているつもりです)

 蛾のように大きく広がった耳。

 小さく円らな瞳。

 柔らかく突き出す、コンセントのような平べったい鼻。

 少女が「ハマルク様の威光公園」で目にした生命体の顔立ちは、まさにブタそのものであった。

 一方で生命体の肢体に関しては一概にブタと言い切れるものでは決してない。小太り中年男性特有のたるんだ肉体から太い手足を突き出し、背筋を丸め、ブランコの傍に無理くりの四足に影を立てている。その様はブタ本来の無軌道な愛らしさとは趣を異にしており、何らかのプレイの一形態を切り取ったかのような計画的な卑しさを醸し出していた。

 無論、件の生命体と目線を合わせる少女の内心も、生命体の不気味さを肌感覚で受け止めてはいたのだが、それでも不思議と恐怖より興味の方が勝っていた。少女は小さく声を震わせる。


「ブタさんなの?」


 生命体と接触を試みるという彼女の勇気が、生命体の陰部欠如に由来している事は想像に難くなかろう。然り。特筆すべき事として、生命体には陰部が欠如しており、穴も棒も無い。本来陰部があるべき場には不毛の肌色たる皮膚のみが広がっているのみである。こういった陰部の欠如が生命体の不条理を極限まで高揚せしめ、少女の現実感の欠如と恐怖の喪失を招いた事に疑念を挟む余地はなかろう。少女の心内に残ったのは肥大化した好奇心のみであった。

 かくして少女の高純度好奇心を一身に受ける事となった生命体はと言うと、プラグ鼻面をヒクつかせつつも満を持して口を開く。黄ばんだ二本の下前歯としわくちゃの大きな舌が覗き、しゃがれた高音が喉奥から響く。


「わたくしめはうんち豚でございます」


「うんち豚? うんち豚ってなに?」と食い気味に割り込む少女に、甲斐甲斐しく口を開き直すうんち豚。


「うんち豚は、うんちしか食べられない生命体でございます。うんち豚は、この地球上でもっとも愚かで醜く、価値が無い生命体なのでございます」


「うんちするの?」


「わたくしめに肛門はございませんので、うんちは致す事が出来ません」


 すかさず「何してるの?」「何で生きてるの?」「おちんちんは?」と目を輝かせてマシンガンのように問いを放ち続ける少女。対するうんち豚は後ろ足を下げ下げ困惑を示しながらも、グギュウウウウウウゥウウウウウゥンとこれでもかと腹を慣らす。


「申し訳ございません……実はわたくしめ、お腹が空いておりまして」


「お腹すいたの?」


「はい」


「じゃあ草あげる」と雑草を千切りに掛かる少女を、豚は手でそっと静止する。申し訳なさそうに苦笑する。


「お気遣いは大変ありがたいのですが……わたくしめはうんち豚でございますので、うんちしか食べる事ができないのでございます」


 言いながらも意味深な上目遣いを送るうんち豚だったが、少女は「ふーん」とそっけなく返すばかりだったのでうんち豚は下前歯を強く舐めた。


 ……懸命な読者諸兄は既にお気づきであろうが、うんち豚は少女のうんちを食糞せしめようと目論んでいるのである。しかし、少女の風体は幼稚園児年少か年中。幼さの中に世界を包括している尊大なお年頃であり、そこまで細やかな気遣いが出来る筈も無く……「わたくしめにお恵みのうんちをお願いいたします」といううんち豚の言外の語を彼女が解する事は無かった。結果うんち豚はその内心をヒリヒリと苛立たせる事となり、また最も愚かなる生命体である所のうんち豚の分際で人様に苛立ちを覚えてしまえる自らの傲慢への自己嫌悪も同時にとぐろ巻き、加えて少女からうんちを受け取るという大目的達成確率の揺らぎもうんち豚の動揺を極限まで高めに高めた時、


「うんち欲しいの?」


 少女の一言。「はい!」と金切り声を上げながらも、無い尻尾の代わりにたるんだ尻皮を振り振りうんち豚は歓喜を示す。しかし……現実は過酷である。「やっぱりキモいからやだ」と走り去っていく少女。黒く歪んで行く視界。

 うんち豚発見報告を愉しそうに行う少女に対し、ヒステリックに叱る母親らしき女の声。「あんなのに近付いちゃ駄目」「バッチいでしょ」「連れ去られたらどうするの」等々、娘がうんち豚という名の有害生命体に関わりを持った事を叱責しているようであった。

「わたくしめは人畜無害でございます。どうかお恵みを。このどうしようもなく愚かで哀れなうんち豚めに、どうかうんちのお恵みを……」うんち豚は内心叫びながらも、計画の完全なる瓦解を悟っていた。諦めの海に一時浸かり佇む。やがてトボトボと歩を進める。

 目指すは公園付近に立つプレハブ小屋の軒先、ツバメの巣の直下である。灰色タイルには、白黒カラーのツバメのうんちが点在している。うんち豚はそれらを捕食しようというのである。


 うんち豚は己が住処とする「ハマルク様の威光公園」、その東口からヨボヨボ抜け出し、竹林沿いの道をトコトコ歩き、件のプレハブ小屋に辿り着く。静かに項垂れ、タイルに点在する燕のうんちを甲斐甲斐しく舐め取ってゆく。

 ちなみに鳥類のうんちは小便と同時に排出される為厳密にはうんちとは言えず、うんちしか食べられないうんち豚にとって酷く不味いうんちであった。不味いだけでなく間違いなく健康にも悪い事だろう。だが、背に腹は代えられぬ。むせ返りながらも、何とか完食する。


「ツバメ様、本日もうんちのお恵みをありがとうございます」


 深く一礼すると、うんち豚は吐き気を堪えながら住処である「ハマルク様の威光公園」へと戻って行くのであった。


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