天使病(2)
一日目………
昨日、医者から貰った薬を飲んでいこうと思った。
少しでも病気の進行を止める為に作られた薬らしい。
……本来私は病院や薬が好きじゃ無いが飲んで見ようと
思う。
そう言えば、天使病の進行する原因はもう一つあって
それは「負の感情」らしい。気持ちの変化によって進行速度が変わるなんて……結構厄介だと思う。
三日目………
今日は出勤する日、元々有給を取っていた為、この二日間
色々と考えられ、心の整理がついて良かったと思う。
会社につき私は自分の席につき作業を始める。
「イラストレーター」それが私の職業だ。
絵を書く事は元々好きだった為天職であると思う。
ただ……今はスランプである。病気のせいでもあるが、創作意欲が余計湧かなくとても困っている。
「松屋さん、休日楽しめましたか?」
「佐々木さん…」
彼は【佐々木 瞬】
………私の片思いの相手である。
「えぇ、休日楽しめましたよ。」
全くの嘘である。本当は嘘をつきたく無いが……
この人には…この人だけには病気の事を絶対知って欲しく無いと思っている為私は嘘をつく。
「へぇ?何したんですか?」
「……お散歩をしたりショッピングしたりしました。」
「良いですね。休日って言う感じしますね!
この前良い散歩コース見つけたんですよ…
今度いっしょに行きませんか?」
「えぇ、よろしくお願いします。」
「ありがとうございます。ではまた」
そう言うと佐々木さんは去っていった。
佐々木さんは本当に良い人だ。誰にでも優しく愛嬌があって、仕事上手で皆んなから信頼がある……
その為……女性からとても人気がある…
私なんかに話しかけてくれるのもその優しさのせいだろう
私は佐々木さんと一緒に居てはいけない人間なんだ。
私と佐々木さんは天と地の差がある。私何かがあの人に惚れてはいけない……でも少しだけ期待して良いですか?
七日目…‥‥…
気のせいかも知れないが背中の翼が少し大きくなった気がする……気のせいであって欲しいと思った。少し暗い気分の
まま私は社員トイレへと向かった。
自分が個室に入ってから誰かがまたトイレへと来た。
「ってかさぁ松屋さんってなんかウザくない?」
「本当〜、素っ気無いし表情筋死んでるし何言いたいのか
分かりづらいよねー」
「本当ロボットみたい」
まただ……こう言う風に言われているのは知ってるし慣れてる。こんな事考えるだったら違う事考えれば良いのに……
「ってか、松屋さんさぁ佐々木と仲良いよね。」
「そう?松屋さんが色目使っているだけじゃないの?」
「松屋さんが色目使っても意味ないでしょ。
優しくされてるからって、松屋さん勘違いしてたりして」
「ウケるわ、それってか松屋さんごとき佐々木の目に無い
つの」
「それな。ってかお昼終わっちゃうじゃん!急ご!」
「ちょっと、まってよ!」
……どうやら二人はどこかに行ったらしい。
最後まで話の本人がいた事に気づいてないらしい……
「……言われても気づいてますよ……」
私の背中の羽が落ちた様な気がした……
十六日目………
「松屋さん今度の土曜日休みですか?」
「えっ、まぁそうですけど…なんでですか?」
「この前、言ったじゃ無いですか?
良い散歩コース教えるって」
そう言えばそんな事言ったな…‥
「ほら、休みの日同じなのでその日なら教えるかなぁって
思って…もし良ければ一緒に散歩しません?」
「良いですよ、では今週の土曜日に…‥」
「はい!!」
彼は蔓延の笑みで去って行った。
自分の中でどこか期待している自分がいたがそんな訳は無い
と思いその考えを消し去った。
……珍しく時間が早く経てば良いと思っている自分がいる…
「……土曜日楽しみだなぁ……」
私の一人言はキーボードの音に消されていった……
二十二日目………
翼がまた大きくなった……
明らかに大きくなった。でも隠し切れない大きさではない…
少し、背中が痛いが我慢出来るので佐々木さんとの待ち合わせ場所に足を運んだ。
「すみません、遅れました…」
予定より十分前に来たのに……いつからいたんだろう?
待たせてしまったのが本当に申し訳無く感じる。
「いえ、俺が楽しみすぎて早く来てしまったんです。
じゃあ、行きましょうか!」
「はい、案内よろしくお願いします。」
「わぁ……綺麗……」
この町にこんな所があるなんて……
木々達が生い茂り色々な種類の花が咲いてる。
確かにオススメの理由がある。
「ですよね!俺ここが本当に大好きなんです
仕事で疲れた時とかここで安らいでまた仕事やって……
って言うループができるほどここが大好きなんです」
《大好き》って私に言われた訳ではないのに喜んでしまって
いる自分がいる……恥ずかしい。
「その……今日この日に決めた理由があって‥
松屋さん日に日に元気を無くしている様に見えて…
……その心配で…もし何か困ったことがあったら俺を
頼って下さい。貴方の力になりたいんです!」
佐々木さん…でも
「気遣いありがとうございます。私なら大丈夫です。」
そう、絶対バレたく無いのだ。こんな姿見られたら絶対引かれる。そしたらもう佐々木さんと関わることが出来ないかも知れない。それだけは絶対嫌なのだ。
「特に困った事も無いですし大丈夫ですよ。」
「…そうですか。」
「次はどこ行きますか?」
「へっ?」
何か変なこと言ったのだろうか、私?
「えっとですね……次は松屋さんの行きたい所をどうぞ!」
「私のですか?」
「はい!俺松屋さんの事よく知りたいですし!オススメ教
えて下さい!!」
「えっとでは……」
こうして私達は他愛の無い会話をして休日を楽しんだ。
「今思えばこれ…‥デートなのかな?」
彼のことだ。そんな事考えないで私を誘ったのだろう……
【貴方の力になりたいんです!!】
この言葉が頭の中でループする。
普通なら恥ずかしくて言えないセリフを言うからハキハキ言うから凄いと思う。
日に日に翼は大きくなってきている……
多分後1ヶ月もしないうちに私は死ぬのだろう。
でももう少しだけ時間を下さい神様。
もう少しだけこの片思いを……彼ともう少しだけ一緒に生きさせて下さい。この淡い気持ちにケジメをつけるために……
二十三日目
今日は仕事で佐々木さんに聞かなければならない書類があるため佐々木さんの所に行く用事があった。
あちらから来る時が多い為自分から話しかける事がほぼないと言える。
でも、これは変わるきっかけでもあるかもしれない……
私はそう思い、佐々木さんのいる資料室へ移動した。
ガチャ
資料室に入ったが、佐々木さんらしき人は見当たらない。
佐々木さんを探す為近くの人に聞いた。
「すみません、佐々木さん居ますか?」
「あぁ、佐々木君かい?奥にいるよ」
「ありがとうございます。」
本当……資料室は資料がいっぱいである。
まぁ資料室だからあたり前なんだが……
……その一言で言うとかなり汚いと言えると思う。
少しは整理整頓した方が良いと思う。
口が裂けても言えないが…‥
ようやく遠くからだが、佐々木さんらしき人を見つける事ができた。
「佐々木……さ…ん」
佐々木さん……は社員の誰かとキスをしていた……
髪が長いとても後ろ姿が綺麗だ……女性社員の誰だろう……
棚が邪魔で良く見えないが、キスしているように見える……
私はいてもいられなくなって資料室から出て行った。
「……やっぱり私何か、眼中に無いんだ…」
やはり、彼女達の言っていた事は正しかったのだ
ズキッ
「いたっ」
背中の痛みが増してきた……心も痛い為余計くる。
「ハハッ……期待なんかするんじゃなかったなぁ……」
二十九日目
あれから、翼の成長が凄まじく、もうパーカーなどで誤魔化せなくなった。貧血にもなりやすいし、もう全てが嫌だ。
会社には、この格好で行けない……
プルルルッ
「はい、もしもし」
「 すみません、編集長私退職します。今までありがとうございました。」
「はぁ?ちょっと!」
ブッ
「……これでよし」
死に行く準備は出来た。誰にも迷惑かけないで死んで行く。
そう私は決めたのだ。
私は《最後》の自分への当てつけで《絵》を書き始めた。
三十一日目…‥…
背中に生えていた翼は、嫌になる程しっかり生えてしまった。
正直歩くのさえとても辛かった。
だか、私は《絵》を描き終えた……
その絵は「天使の絵」
ハハハッ
自分の死因が翼だってのに、滑稽だ。
ピーンポーン
玄関チャイムがなった。
「何か注文していたっけ?」
私は玄関に向かって歩き出した。
翼は見えない様に、上手くやらなければならない……
私は玄関を半開きにしながら言った。
「はーい、どちら…‥さ…ま…」
「松屋さん……お久しぶりですね。」
彼は不恰好な笑顔で笑っていた。佐々木さんらしくない……
「佐々木さん、どうして家がわかったんですか?」
「編集長に教えて貰いました。……松屋さんどうして急に
仕事をやめたんですか?」
彼の目が私を捕らえる。
「貴方には関係ない無い事です。
……ただ、仕事を辞めたかっただけです。」
我ながら冷たい言い方だと思う。
「松屋さん……どうして嘘をつくんですか?」
なぜ……嘘だとバレた?
「僕あの時、言いましたよね?
僕は貴方に頼って欲しいと。
何で一人で抱え込むんですか?抱え込まないで下さよ。」
佐々木さん……でも私は誰にも迷惑をかけたく無い。
それに……貴方を見てると心が痛くなってからから…‥
「私の事何てほっといて下さい。…‥‥愛する彼女さんと一緒にいれば良いじゃないですか……」
色々な感情が混ざりあってしまった……気持ち悪い……
私はドアを閉めようとした。
ガッ
「えっ」
佐々木さんがドアを押さえたのだ。
「待ってください、松屋さん…勘違いしてますよ。」
は?余計分からない。もう部屋に入りたい……
残された時間は少ないのだから…‥
もうほっといて欲しい……本当に
「何も勘違いしてません。では」
私はもう一度ドアを閉めようとした。
ズキッ
背中が異様に痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
私の体は限界に近かったのだ。
あれ……しかいが……ぐ…らつ……いて……
ドサッ
「松屋さん!?」
ガチャッ
とうとうドアは開けられてしまった……
そして私の姿も……見られて……しまった。
あぁ、終わった、嫌われてしまう、最後の最後に嫌われたくなかった……
「松屋さん!大丈夫ですか!?松屋さん!」
「佐々……木さん私の姿を見てもなんとも思わないんです
か?」
「なんとも、思いません!貴方は貴方だ」
「そっ……か」
なんだか、少しだけホッとした自分がいる。
こんな自分を見ても嫌わないでくれて嬉しいと思う私は単純だろうか。
「松屋さん……好きです。」
「へっ?」
「貴方のことがずっと前から好きでした。優しい笑顔
仕事を頑張る姿、俺と喋ってくれる時……
貴方と一緒にいるだけで僕は幸せでした。」
「…嘘……嘘よ、そんな事ある訳ないじゃない……
それに……佐々木さん、資料室で女性とキスしてた
でしょ。」
そう……私は見たのだ……見たくない所を……
「あー、それで……
アハハッ」
佐々木さんは大笑いし始めた。
「ちょっと何よ」
こっちは本気で考えてるのに……
「す、すみません。
……そのキスしてないです。
あの時、目にまつ毛が入りそうになって、友人にとってもらったんです。……男の友達にね。」
えっ!【男】!?
「その…田中にと一緒に来てたんですよ。資料をいっぱい
持っていく為、力のあるやつが必要でそれで暇そうにしていた『ロン毛』の田中に手伝ってもらって……その後はさっき説明した通りです。」
……んじゃ私の勘違いというこ…と?
「えっと……その……」
「ふふっ、誤解が解けた様で良かったです。
……松屋さん、俺はどんな貴方でも愛します。
好きです。俺と付き合って下さい。」
「こんな私で良ければお願いします。」
嘘…見たい本当に嬉しい
あれ、背中が痛くない?
私は背中を手で触ってみた。
翼がなくなっている!
天使病が治ったのだ。
そう言えばあの医師
「天使病は自身が「今までで一番幸せ」と思った時完治
します。」
確かに、幸せだ。佐々木さんと付き合う事ができるのだが、
「一体何があったのか…
さっきまであった翼はなんだったのかゆっくりでいいから
教えて下さいね。
これからよろしくお願いしますね。
唯さん」
「えっ名前!!」
「恋人になったんだか、これくらい良いじゃないですか?」
「もう……」
そうだ、これからは「恋人」なんだ。
今はまだ実感が無いが時間はこれから、まだある。
佐々木さんと……彼とゆっくり幸せをきづきあげたいそう
思ったのだ。
「完治ですか……本当に良かったです。」
「はい」
「あの時の貴方の顔は寂しそうだったのに今は幸せそうな
顔してますね。」
「はい!幸せです。先生ありがとうございました。」
「いえいえ……そろそろ彼氏さんが待っているんじゃない
ですか?」
「そうですね……では」
「あっそうそう……唯さん、次の受診はないように!」
「分かってますよ!!!」
カランコロン
そして、病院の玄関ドアは閉められた。
「あの時の状態は絶望的だったのに……
恋の力って凄いですねー。」
何親父臭い事言ってんだろう。自分……
でも一人言うとすればあの二人に幸あれ……
願わくばもうここには来ないように……
……さてカフェオレでも飲むか…
今日はいい豆を仕入れる事が出来たはず!
楽しみだ…
カランコロン
「…患者さんの受診ですね……」
そしてまた彼は玄関のドアに向かった……