第五話 崩れる日常
弟は昔から自然が好きだった。
生き物などに興味を持っては、毎日徹底的に観察する。
そんな弟のひたむきな気持ちが私は好きだった。
「でも今は…」
「何か言った?」
「いや」
「ちょっとー弟、アリをふんずけてるわよ」
「あ、あり?」
「…」
姉がいつもと違う顔をしているのはなんとなくわかった。
でもその理由がわからなかった。
「じゃあ今日は妹ちゃんが鬼ね」
「…チッ」
「うん?」
「…ってなんでだよ~」
それからアイドルになるために三人は必死に練習した。
ぼくは二人と一緒に練習していくうちに、自分もアイドルになりたくなっていった。
そしてその気持ちを二人に伝えた。
幸いぼくの頑張りが認められたのか、二人は快く協力してくれた。
この二人とアイドルになれたらきっと楽しい。
そんな気持ちだった。
数か月後…。
司会が悠々と喋る。
「本日のオーディションを開始いたします」
「ぼくはアイドルになるんだ」
「そしたら輝かしい日々が待ってるんだ」
またぶつぶつ言ってしまった
「弟よ、気持ち声に出てる」
姉のフォローが痛い。
審査員長はこちら~
続いて……
会場はオーディションに参加する人で埋め尽くされている。
そこにひときわ輝く男がいた。
「あー見てみて、あの子今人気のしょうゆ顔くんだ~」
「こっち見てるわよ」
ふと気になってそちらを見る。
こちらを見て、何か言っている。
聞き耳を立てて聞いてみると…。
「しかしお前と戦うことになるとはな」
「お、お前は…しょうゆ顔…」
ギラリと目を合わせた瞬間…
「や、やつの目、目!、、目が!赤い!…」
しょうゆ顔の男はあの時と同じ輝く赤い目をしていた。
ぼくはその目を見た瞬間パニックに陥った。
「うっ…めまいが」
目を見ていると意識が遠のいていく…。
でも目が離せない…。
だめだ…吸い込まれる…
「どうしたの弟……弟!」
呼び起こそうと聞こえる姉の声…
「ふふっ…」
意識が遠のく中でぼくは確かに聞いた…
やつの笑い声を…
でも…
この感覚は…
覚えてる…あの時と同じだ………
視界は真っ暗になり、ぼくは完全に意識を失った。