表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

1.プロローグ


 3月1日木曜日。

 私立ルミナス女子高等学校の卒業式。



--------- ◇ ------------------ ◇ ---------



 その人は、中音域の低めの声で穏やかに話す。

 わたしは、そのゆったりとした話し声が好きだ。



 その人は、丸顔のショートボブ。

      身長160cmのスラっとした体形。

 わたしは、彼女より身長が5cm低い。

      向き合うと少し見上げる形になる



 その人は、突然しがみついたわたしのことを、

      全身で受け止めてくれた。

 わたしは、その胸で感じた温もりと柔らかさを、

      一生忘れないだろう。



 その人は、聴かせてくれた。

      ドビュッシーのピアノ曲「夢」。



 その人は、今日、母校を巣立っていく...



--------- ◇ ------------------ ◇ ---------



 卒業生入場。

 並べられたパイプ椅子の島と島の間を通って、冬服姿の238人が3列に分かれて入ってくる。

 吹奏楽部が演奏するのは、エルガーの「威風堂々 第4番」。


 舞台に向かって右側の列が1組から3組。

 左側の列が6組から8組。

 そして真ん中の列が4組と5組。


 3年5組の彼女は、真ん中の列の後ろのほうから入ってくる。

 2年3組のわたしは、真ん中の列の通路のすぐ横の椅子に座っている。


 彼女がわたしの横を通った。

 一瞬、わたしのほうを向いて、微笑んだ。



 講堂の前から順に、卒業生の島、保護者の島、そしてわたしたち2年生の島。

 後方の2階席に、吹奏楽部と合唱部のメンバー。

 右手の横に並ぶのが、ご来賓や先生方など。


 卒業生の入場が終わり、全員が講堂の前方に並べられたパイプ椅子に着席した。

 それまで、次々と埋まっていく卒業生の席のほうに向いていた意識が、正面の舞台のほうに向く。


 思い出す。わたしが初めて彼女を見たときも、こうして講堂のパイプ椅子に座って、舞台のほうを向いていた...



--------- ◇ ------------------ ◇ ---------



...


「どうしたの? そういえば、電気つけないでもいいの?」

 夕暮れ時。消灯したままの音楽室の中は、かなり薄暗くなっていた。

「そのまま、で...」


 彼女は、わたしの正面に立って、わたしが何か言うのを待っている。

 なにも言い出さないわたしに、彼女の顔から笑みが消えていく。


...

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ