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精霊のジレンマ~古の記憶と世界の理~  作者: 三河三可
フタガの岩峰のハーピー

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第90話.霧の街道

 崖から降りると、ソースイとホーソンはしょんぼりしている。ワームが動き出した時の振動で、岩峰の頂上で何かが起こった事を察知したようだ。そして振動が収まり俺達が降りてきた事で、その何かが終わった事を知る。


 結界やワームの話をすると悔しがる2人。グラビティが活躍出来たと悔しがるソースイに、未知の技術を見れなかった事を残念がるホーソン。


「結界は1つじゃなくて、他にも幾つかあるらしいぞ」


「「本当ですかっ!」」


 異口同音で、俄然やる気を取り戻す2だが、ワームと対峙した俺の事を心配している様子はない。心配し過ぎて、束縛や監視されるのは辛いが、少し複雑な気持ちではある。


 その点は精霊達も同じで、好奇心だったり、ぼっちが嫌で仲間になる精霊も多い。主従、支配、従属と様々な関係性があるのだろうが、どれもが俺らしくない。より関係性が深くなるであれば、今はこれで問題ないとは思う。


「イスイの街に行った後だからな!」


「そうと決まれば、イスイに急ぎましょう!」


 俄然やる気を出すホーソンに、黙って先頭を歩き出すソースイ。


 最初はハーピーの襲撃に備える為の協力を得る目的だったが、狙われてのはイスイの街である可能性が高い。そうなると、残されている時間は少ない。

 タカオの街の襲撃を成功と判断すれば、直ぐにイスイの街を襲撃するかもしれない。

 それにイスイの街から隊商や旅人が来ないという事は、間違いなくハーピー達の活動が活発になっている証拠になる。何事もなく、岩峰地帯を抜けれるとは思わない。


 そんな事を考えていると、クオンがハーピーの羽ばたく音を探知する。


 “ハーピー、多い”


「僕も、確認したよ。近付いてくる黒い塊はハーピーの集団だね」


 ナレッジがシナジーの視界を、俺の頭の中で展開する。

 今まで霧に覆われていた岩峰の頂が露になり、この事にハーピー達も気付く。もう少し近付いてくれば、結界が無くなりワームが倒された事も分かるだろう。


「急ごう!結界が壊された事を知れば、ハーピー達の警戒は厳しくなる」


 俺の前に霧が集まり、ケモミミエルフが現れる。


「ごめんなさい。あなた達の足を引っ張るつもりはなかったんだけど迷惑をかけたみたいね」


「俺達に警戒して、イスイの街への襲撃が遅れるなら、その方が良かったよ」


「ありがとう。嘘でもそう言ってくれるなら助かるわ」


 影からムーアが現れる。いつもはブレスレットの中だったから違和感を感じるが、精霊は召喚したままの方が魔力を消費してくれる。それも考慮したムーアの判断なのだろう。


『この人はね、効率とかムリ・ムダ・ムラとか言って、こだわりが多いのよ。だけど自分だけの事なら、タカオの街だけじゃなくイスイの街なんて関係ないわ。精霊を探して、さっさと次に行けばイイのよ。だけど、それが出来ない性格なのよ』


「お人好しなのね」


『少し優柔不断で悩みすぎるから、そこは尻を叩かないとダメよ』


「そういう事は、俺がいない所でする話じゃないかな?」


『あら、聞かれた方が効率が良いでしょ。1回でまとめて済ませれるんだから♪』


「分かったわ、私もそうすれば良いのね!」


 “ハーピー、来る”


 クオンが注意を促し、シナジーは霧へと戻り姿を消す。何だかムーアのような存在が増えたような気がしたが、今はそこまでは分からない。


「ジェネラルがいるよ!」


 クオンの探知は、個体の重量や音質の違いで相手を判断する。その点、ナレッジは映像で識別名する為に、視認出来ればクオンの探知より判断が速い。


「シナジー、ハーピー達は霧の中には入ってこないんだよな」


「ええ、近寄ってもこないわ。どうするの?」


「予定通り、ハーピー達には結界が壊された事に気付いてもらう。その間に、なるべく先に進もう」


 そして、ハーピー達は予定通り壊された結界に気付く。ハーピージェネラルが1人先行して飛んでいく。行きより帰りの方が明らかに速く飛んでいる事が、重大さを表す証拠になる。


 少しは足止めになってくれる事を期待して岩峰地帯を進む。街道は全てが霧に覆われているわけではなく、所々で霧が晴れている。また霧もずっと一定の場所に留まっておらず、場所を移動したり高度を上げたり下げたりしているが、それは霧の精霊達の仕業でもある。

 俺達が移動するのに合わせて、不自然がないように霧の位置や場所を変えてくれる。


 そして岩峰地帯の終わりが見えた時に、再びクオンが気配を探知する。

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