第89話.2つの契約
結界とワームの問題は解決したので、後は1つずつ片付けよう。
まずは助けだした霧の精霊達が無事である事。これは問題なそうだ。
ケモミミエルフ少女の周りに、沢山の精霊が集まっている。なぜ霧の精霊だと分かるかといえば、姿形を自由に変えているから。結界の中に長い間捕らわれていたが、これなら大丈夫だろう。
・・・んっ?ケモミミエルフがケモミミエルフ“少女”になっている!
「どうして少女になってる?大人だったろ?」
「契約主に合わせて姿形を変えるのが、霧の精霊としての力の見せ所よ」
「俺の性癖みたい思われるからダメだ!」
「あらそう、じゃあ元に戻すわ」
大人の姿に戻った霧の精霊だが、ケモミミエルフは変わらない。ただケモミミとエルフに異世界を強く感じただけで、決して趣味・趣向ではない!
霧の精霊達が消えて、ケモミミエルフだけが残る。
「契約は私だけでイイわよね」
「そのつもりだけど、何かあったか?」
「私の代わりに、ここの精霊達が岩峰の麓を霧で満たすわ」
隠れる場所の少ない岩峰地帯で、霧の存在がハーピーからの隠れる場所となる。どう思われているか分からないが、そこまで岩峰の環境を変えるつもりはない。
「他にも問題があるのか?」
「どこまで影響するか分からないけど、この頂上の霧は晴れて、結界が破壊された事が見つかってしまうわ」
「ムーア、どう思う?」
『そうね、見つかった方がイイんじゃない。ハーピー達に気付かせた方が、動きが鈍るんじゃないかしら』
「俺も同じ意見だな!」
「ありがとう。だけど、何故そこまでしてくれるの?」
『それは契約をすれば分かるわよ』
ムーアが契約を取り仕切ろうとすると、霧の精霊の横にカーバンクルが並ぶ。
俺が屈んでカーバンクルを見ると、霧の精霊の後ろに隠れてしまう。
「ちゃんと挨拶するの」
影からヒト型のクオンが現れる。クオンに促されて、再び俺の前に出てきたカーバンクルが、頭をペコリと下げる。
「クオン、カーバンクルの事を知ってるのか?」
「あのね、この角のカーバンクルは幸運の精霊なの。一緒に居るとイイ事があるの」
同じ動物型の精霊として、相通ずるものがあるのかもしれない。それに珍しくクオンがお願いするくらいだから、もちろんダメとは言わない。
そして恒例の名付けになる。今まで名付けて拒否された事はないが、その人のセンスや人となりを見られている気がして恥ずかしい。
霧の精霊が、シナジー。カーバンクルが、コミット。
「シナジー、コミット、この名前で大丈夫か?」
ブレスレットに消えたことで、契約が成立した事を確認する。
クオンは珍しく影の中に戻らず、俺の顔を見つめ何かをアピールしてくる。コミットを呼び出すと、素早く両手で抱えあげる。
「コミット、お礼するの!」
クオンに言われると、コミットがお腹のポケットから何かを取り出す。カーバンクルって有袋類だったのかと少し驚いたが、そこから取り出したのは何かの金属。
「これを身に付けてると、幸運が訪れるの」
カーバンクルの出した金属をクオンが取って、俺に渡すと同時に影に潜ってしまう。
不思議な感じがする。思い出せないが、知っている感触に悩む。
「僕が教えてあげるよ」
自慢気に話しかけてくのはナレッジ。
「それはね、ブレスレットとアンクレットの材料にもなってる金属の1つだよ。見たことがあるよ」
「それで、感触が似てるのか。何か効果があるのか?」
「うーん、多分ね、そのうちイイ事が起こるよ」
結局何かは分からない不思議な金属。それなら精霊達のブレスレットの材料にでも使おうと思う。
「あら、私は呼んでくれないのかしら?」
目の前には、ケモミミエルフもどきのシナジー。
「ムーア、どうなってるんだ?まだ召喚してないぞ」
『ごめんなさい。私と一緒な契約にさせてもらったわ』
霧の精霊シナジーの真価は、魔力操作になる。無属性も魔力操作の魔法になるが、霧属性はその名の通り、霧状にした魔力を操作する事に特化している。
つまり、カショウの周りに漂う残滓魔力の範囲を広げたり、濃度を変えたりする事が出来る。
残滓魔力の範囲が広がれば、マジックソードやシールドの操作範囲が広がる。
魔力濃度が高くなれば、気配探知魔法の精度も高くなる。
『今までは私が手伝ってたけど、今日からはシナジーが手伝うわ。これは霧の精霊の専門分野ね♪』
「だけど、シナジーは大丈夫なのか?自由に出入り出来る契約なら、その分誓約も厳しいだろ!」
「私の事を心配してくれの?私は問題ないわよ。ライバルに勝つ為には、これくらいは必要はだからね!」
「んっ、何のライバル?」




