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精霊のジレンマ~古の記憶と世界の理~  作者: 三河三可
フタガの岩峰のハーピー

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第88話.ワームに仕掛けた罠

 準備は終わったが、ムーアの目が何かを言いたそうにしている。

 長い詠唱をただ待っているのは愚かだし、詠唱しているフリして無詠唱で魔法を放ってくる奴もいる性悪の世界。


「罠と分かってて、素直に飛び込む必要はないだろ」


『あなたも、アシスに染まってきたのね。最初は素直な子だったのに』


 と少し感慨深げに呟くムーア。成長したと喜んでいるのか、擦れた性格になったと悲しんでいるのか分からないが、この問題を俺に押し付けたのはムーアだという事は忘れている気がする。


 クオンの探知スキルやブロッサの毒スキルも、使い方によってはチートスキルになる。それに攻撃にしても守るにしても組合わせし易く、使い勝手の良いスキル。

 この世界でも、影や毒といった名前が、属性自体の印象を悪くしているのだと思う。


 罠を仕掛けることに没頭していて、霧の精霊の存在を完全に忘れてしまった。チラッと霧の精霊の様子を窺ってみると、呆気にとられている。ケモミミエルフ姿のままで立ち尽くしている姿が何とも言えない。


 結界にどうする事も出来なく途方にくれ、それなりの覚悟を持って俺達に接触してきた。しかし結果は予想の斜め上。


「そろそろ初めてもイイかな?何か問題でもあるか?」


 待ちきれないダークがマジックソードを操りアピールしてくるが、結界の中にいるのは霧の精霊達なので、最後に確認はとってみる。


「え、ええ、お願いするわ」


「ダーク、初めてくれ」


 2本のマジックソードが、舞うように動きだす。ダークの技量があれば、石の杭や鎖であっても簡単に切り裂いてしまう。

 杭や鎖を破壊すればする程に、結界の効力が失われる。急速に結界の力が失われるとともに、地面からの嫌な気配が強くなる。



 ゴゴゴゴォォォーーーッ!!


 地面が振動して、石の杭に囲まれた外周にそって地面が隆起し、杭ではないものが飛び出してくる。

 結界を全て囲むだけの無数のワームの牙。本来なら、結界内の全てを喰らい尽くしてしまうはずだった。


 しかし、そこで動きが止まってしまう。地面に牙が飛び出しているという事は、地面に穴を開け流し込んだ毒はワームの身体の中。

 喰らい尽くす為に勢いとよく飛び出しただけに、違和感を感じる間はない。地面の穴に仕込んだのは、ブロッサが作り出した毒の中でも、特に即効性がある麻痺毒。


 その隙に、結界内の霧の精霊達は全て逃げ出す事に成功する。そして、ここからは俺の出番になる。背中に現れる純白の翼が、俺を空へと浮かび上がらせる。


 ゴブリンキングの杖に魔力を流し込む。マトリが俺の魔力の流れを調整し、無駄なくスムーズに魔法が発動する。


「ウィンドトルネード」


 風の渦の衝撃は、毒に濡れた地面をワームの口の中へと押し込む。しかし、それだけではない。螺旋状に回転する風の流れが、地面を大きく抉り、そして貫通した魔法がワームの身体へと流れ込む。さらには、負圧が地面に撒かれていた毒を吸い込んでゆく。


 痙攣するようにピクピクと動いていた牙の消滅が始まり、ワームが力尽きた事を知らせる。


「でかそうな魔物だったから心配したけど、意外とあっけなかったな」


『そうね、ブロッサの本気を見た気がするわ』


 “まだ、何かある”


 クオンが消滅して出来たワームの穴の中で、何かの気配を感じとる。ウィスプ達の光に照らされて、壁に何か光るものがパタパタと動いているのが見える。

 翼の風で吹き飛ばさないように注意しながら壁に近付くと、そこにはキツネの尻尾にウサギのような身体、そして額には透明な1本角の動物がいる。壁に角が刺さり、抜けずにもがいている。


 恐る恐ると身体を掴み、壁から引き抜く。壁から抜けた瞬間はバタバタと暴れだしたが、底の見えない穴に気付くと大人しくなる。


「それ、富の精霊カーバンクルだよ!」


 ナレッジがウィスプ達の視覚を通して、動物の正体を教えてくれる。富と聞いて、少し心が弾む。この世界にきて何度目かのお金の匂い。


「だけど、珍しいね。カーバンクルの角は赤色が多いのに、これは透明な角をしてるね」


「角に他の色もあるのか?」


「僕の知っている限りでは、赤くなればなるほど力が強くなるんだ」


 ワームを倒して出てきたのは、食道に引っ掛かり止まっていたカーバンクル。そして、角の色が普通ではない。

 そして透明な角という、良く言えばレア感。悪く言えば、ぼっち感が漂う。

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