第71話.最奥での戦い①
部屋の中は明るく、中央にはドワーフが立っている。中に置かれているものは何もなく、何かが潜んでいる様子もない。
オールバックのロマンスグレー。短躯短肢でがっちりした体型。後は髭があれば、俺が知る典型的なドワーフ。
部屋に入った瞬間、ドワーフの目が開く。ニヤッと笑い、こっちを見てくる。
「小僧がラミアを倒したのか?」
予想していたのとは違う甲高い声が、ドワーフから発せられる。
「そうだったら、どうする?」
「いや何、いつか殺してやろう思っていたのに邪魔をしてくれたもんだ。奴の最後くらいは知っておく権利があろう」
「俺達じゃなかったら、どうする?」
「ならば、もう用はない。秘密を知った者は、ここからは出られんわ!」
あまりにも甲高い声が似合わない。ボイスチェンジャーでも使ったのかと思う声に、何とか笑いを堪える。かなりの表情筋との戦いで、あまりドワーフの言葉が頭に入ってこない。
『変ね、あの声。あまり大きな声で話し掛けないで欲しいわ』
しかし、遠慮のないムーアは直球で言ってしまう。
「声が変質してるのよっ。額から声が出てるでしょっ。変な声になってる原因ねっ!」
ベル、音の精霊で専門分野なのは分かってる。だけど、今は的確に解説してはいけない。
何とか表情を崩さずに、声を振り絞る。
「2人とも、聞こえてるぞ!」
褐色の肌をしているが、明らかに真っ赤になって、怒っているのは明らか。
「余はオルキャン。人種も魔物も精霊をも超越した存在。お前らのような下等な存在に、余の価値は分からん!」
『あなたの声の価値なんて、知りたくないわ!』
ムーアが啖呵を切る。精霊達を捕らえ利用していたのは、間違いなく目の前にいるドワーフ。
『カショウの代わりに、言ってやったわよ!』
「おっ、おうっ」
迫力のあるムーアに少し圧倒される。ムーアはあまり精霊同士の繋がりを持ってこなかった。それでも分け隔てなく、どんな精霊であっても存在を尊重する。契約を司る精霊であるが故の態度なのかもしれない。
「お前らごときに、余が出るまでもない。近付くことも汚らわしい!」
オルキャンが腰の袋から、何かを取り出す。コボルトの魔石のようだが、色がおかしい。綺麗な青色ではなく、灰色がかった色で透明感もない魔石が2個。
それを床に放り投げると、魔石から灰色の液体が滲み出てくる。最初は横に広がるが、次第に上へと盛り上がり、そしてヒト型へと変わる。
ヒト型ではない。正確には光沢のあるコボルトの姿。動く度にガチガチッと、硬い物同士がぶつかる音がする。
「メタルコボルト?」
「お前らごときに魔物で十分。殺ってしまえ!」
オルキャンを見つめたまま動かないメタルコボルト。興奮したオルキャンの顔が更に赤くなる。
オルキャンは俺達を左手で指差し、右手で剣を高く掲げ、戦えとジェスチャーする。
やっと理解したのか、メタルコボルトが俺達の方を向き襲いかかってくる。武器は持っていないが、全身凶器に近いだろう。
しかしメタルコボルトの動きは鈍い。本来のコボルトの俊敏性は失われている。未来から来たターミネー○ーというよりは、ただのメタルゴーレムに近い。
ウィスプ達と、ソースイ・ハンソ組に分かれてメタルコボルトを迎え撃つ。
ウィスプ達のサンダーボルトは、メタルコボルトにはよく通る。当たった瞬間は、火花が散り身体が大きく揺れる動くが、再び何も無かったかのように動き始める。
メタルコボルトを倒すという事に限定すれば少し分が悪いが、メタルコボルトがウィスプ達を倒せるかといえば、触れる事も出来ない。
一方、ソースイとハンソは、がっぷり四つの肉弾戦。メタルコボルトはかなり頑丈な身体で、ソースイの斧でも表面にキズが付く程度。大きく損傷させたりする事は出来てはいない。
ソースイが攻撃して出来た隙に、ハンソが岩で殴り付けるの繰り返し。
「なかなか面倒臭い相手だな」
俺とムーア・ブロッサは、オルキャンを牽制しながら、メタルコボルトの様子を観察する。
『そうね、私もブロッサのスキルも効果なさそうね』
その時、メタルコボルトがハンソを振り払い、その手が胸に当たる。ハンソの胸には、指で切り裂かれた跡がくっきりと残る。
動きは遅いが、メタルコボルトの攻撃は鋭い。ドワーフの技能や特殊な工具を用いなくても、簡単に切り裂いてしまう。
「ハンソ、下がれ!」
そしてハンソに倉庫で見つけたハンマーを渡して、メタルコボルト相手の肉弾戦を止めさせる。
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