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精霊のジレンマ~古の記憶と世界の理~  作者: 三河三可
タカオの街のドワーフ

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第67話.精霊の救出

 抜け穴から見える大部屋の中。予想通り部屋の中央には石柱が設置され、部屋の外周には石像のように動かないコボルト達。

 石柱には上部には鎖が巻き付けられているが、そこに精霊の姿は見えない。


「遅かったか?」


 リズやリタも存在が消失しかけていたが、今回は間に合わなかったのかもしれない。僅かな判断や躊躇った時間を悔やんでしまう。


『待って、あれは何?』


 ムーアが鎖に付いている箱に気付く。


 大きさは小さめのダンボール箱サイズで石柱に似た色をしている。鎖で雁字搦めにされている為に、暗い部屋では分かりにくい。


「あの箱から、魔力を吸収しているのか?」


『どうやら、そうみたいね』


 石柱は部屋の真ん中に立てられているだけで、ミュラーの時のように砂山の頂上にあるわけではない。


 マジックソードを握り直す。契約した精霊とであれば、言葉に出して会話をする必要はない。強く思えば、それだけで十分。敢えて言葉にするのは、自分自身への迷いを振り払うため。


「ダーク、フォリー、マトリ、行くぞ!」


「かしこまりました」


 3人を代表してがフォリー返事する。その返事と同時に純白の翼が現れる。“私達にも声を掛けなさい!”という、リズとリタの無言の主張。


「2人が居ないと始まらないんだ。しっかりと頼むよ」


 翼を大きく広げ、納得してくれたみたいだ。


「それじゃあ、皆行くぞ!」


 マトリがローブに魔力を流す事で、マジックアイテムの効果が発揮され、少しだけ体が軽くなる。


 展開したマジックソードは2本。1本はダークが操作し、もう1本は俺が持つ。俺の魔力が実体化した存在だが、握り直す事により存在を再度認識する。


 一度深呼吸をして、大部屋に踏み出す。石柱までは、三歩あれば届く。


 石柱へ向けての全力疾走。最初の右足の一歩に全力を込め、それに併せて純白の翼が羽ばたき、俺を大きく前へと進める。


 二歩目でマジックソードが黒く光り始める。


 三歩目で、ダークが俺のをイメージを受け取り、先行して動き出しす。フォリーの陰魔法シェイドを纏ったマジックソードによる左からの切上げ。

 マジックソードと石柱がぶつかり、何の抵抗もなく石柱に食い込んで鎖ごと断ち切る。そして箱は鎖から解放され、ゆっくりと下に落ちていく。


 俺は箱に狙いを定めて、マジックソードをあてるだけ。ダークのように切り裂いては、中の物を壊してしまう。シェイドを纏ったマジックソードが、箱を壊してくれる。


 俺の持つマジックソードが届く距離まで来て、箱から漏れる臭いを感じる。


「中身は精霊か!」


 中身が分かってしまうと、なぎ払うマジックソードの動きが少しだけ鈍ってしまう。

 当たった感触はないが、シェイドの魔法が僅かに届いたか?

 地面に落ちた箱は、サイコロのように転がる。僅かに届いたシェイドの魔法が箱の角に穴を開け、そこから光る砂が零れる。


『その小さな粒の一つ一つが、光の精霊リヒトよ』


 ムーアの顔が苦々しい。


「何か不味いのか?」


『陰の精霊と、光の精霊の相性は良くないわ。それも陰の精霊の天敵が光の精霊って感じかしら』


「ブレスレットの中でもダメなのか?」


『影響は大きいわよ』


 今後の事を考えると、ブレスレットの中でもクオンの影の中でも、ヴァンパイアと光の精霊は共存出来ない。


 この零れた砂を全て集めて、部屋から脱出するのも難しい。


「ウォオオオッ」


 コボルト達の唸り声が響き出す。これで俺達が、光の精霊の居る大部屋に侵入した事がバレるのは時間の問題。


 しかし選択肢は1つしかない。


 ダークをブレスレットから召喚し、クオンの影へと移動させる。


「この砂のような粒全てに名付けする必要はないよな?」


『この精霊達の全てを1つの集団としての捉えれば、名前は1つで大丈夫だわ』


「お前達の名前は、リッター。共に生きる覚悟があるなら付いてこい!」


 そして俺は再び、抜け穴へと向かって走る。その後を追うように、光の精霊がブレスレット目掛けて付いてくる。


 抜け穴まで辿り着くが、まだ全ての光の精霊たちは集まらない。


 ウィスプ達がサンダーボルトでコボルトの先頭集団を少しでも削り、ブロッサがポイズンミストで毒の壁を作ってくれる。

 何も言わないでも、俺のを考えを感じとり動き出す頼りになる精霊達。


 光の精霊の最後が見えた段階で、抜け穴を通り坑道へと戻る。コボルト達も抜け穴近くまで迫っているが、何とか光の精霊達をブレスレットに回収する。


「ハンソ、抜け穴、岩、出す」


「エトッ、エトッ、エトッ」


 ソースイがハンソに見事な指示を出し、間一髪で抜け穴を塞ぐ事に成功する。

お読み頂きありがとうございます。

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物語はまだまだ続きますので、引き続きよろしくお願いいたします。

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