第63話.張り巡らされた罠
大部屋の天井が揺れる。準備万端で、ここで迎え打つ! という選択肢は一瞬で消える。
「まずい、ここを崩落させるつもりだ」
部屋の入口には、ハンソが積み上げた岩の山。時間をかけて積み上げた岩が、逆に俺達の足を引っ張る。
「シェイド」
俺のローブの袖からフォリーが魔法を放つと、積み上げた岩がボロボロと崩れて砂に変わっていく。
改めて見ると、シェイドは凄い魔法かもしれない。触れた物は劣化し砂のように変わる。日の光には弱いが、触れれば耐える事も不可能な部類の魔法が、一瞬で入口を開く。
ハンソを召喚解除し坑道を戻るが、大部屋を崩しにくるとは思わなかった。ミュラーやコボルトも一緒に埋めにきた。
その時、大部屋の柱に亀裂が入り、天井から砕けた石が落ち、この部屋は長くは持たない。
ここは重要な場所ではないのか?それとも、ここを潰してでも構わない程に俺達が危険人物認定されたということなのか?
どちらにせよ、この廃坑に生き埋めは避けなければならない。
「一旦、外に出よう」
来た道を全力で戻るが、見張りとして残っていたコボルトも、ウィスプ達のサンダーボルトで瞬殺され強くはない。他からの応援が駆け付けるまでに、分岐点まで辿り着ける。
臭いを辿って迷う事なく一直線で来た為、帰りも迷う事はないだろう。ただ途中の小さい横穴からは妨害があるかもしれない。
「ブロッサ、ポイズンボムを頼む」
「ゲロッ」
坑道はどのように繋がっているか分からない。臭いのあった坑道や、コボルトが潜んでいそうな怪しい場所、大き目の横穴にはポイズンボムを放って、妨害はさせない。
しかし、クオンの探知にも掛からないし、松明などの明かりも見えない。ここまで来ると、逆に不自然な気がする。
「嵌められた?逆に相手の思い通りか?」
『どういう事かしら?』
「坑道から出るように仕向けられたんじゃないか?生き埋めにするぞって脅しに、上手く引っ掛かったって訳だ」
『引き返すの?』
「地の利は相手にある。あらかじめ潰しても大丈夫な坑道や空間は把握している。ここまで簡単に侵入できるのも絶対の自信があっての事じゃないか?」
『まんまと誘われたのね?』
「俺達の侵入が予想以上に早かったからミュラーを助ける事が出来たけど、誘われた結果だろうな」
『だいぶ性格が悪い相手ね』
「もっと悪いのは、外でコボルトが待ち構えてるって事だろうな。抜け道はあるかもしれないけど、罠を張って待ち構えているだろうしな」
『それじゃあ、どうするの?』
「正面から堂々と、期待に応えるのも大事じゃないか。まだ俺達の実力を知らないだろ。リズとリタの“ウィング”、ソースイの“ゼロ・グラビティ”は知られてないから駄目でも逃げ切れるだろ」
『それが堂々となの?』
「正々堂々とは言ってないからな。駄目なら堂々と逃げる!」
『軽口をたたけるくらいなら、余裕はあるのね』
俺達の余裕のある会話に対して、ダークは1人だけ思い詰めた顔わしている。
「ダーク、大丈夫か?」
「カショウ様、私にブレスレットの中で戦うチャンスを下さい」
「どういう事だ?」
「光のある世界で、特に接近戦に特化した私では戦う事は出来ません。しかし純白の翼のようにカショウ様をサポートする事は出来ます」
影からフォリーが出てくる。
「兄さん、分かってるの?召喚状態にあって、カショウ様の魔力を消費することが重要な役割なのよ。戦いたいのは自分の願望でしょ!」
どちらかといえば冷静で感情を見せないタイプのフォリーが、かなり怒っている。首根っこを掴んで、無理矢理でも影に連れていきそうな雰囲気。
「フォリー、ちょっと待て。ダーク、具体的には何が出来るんだ?」
フォリーが渋々と引き下がり、少し引きつった表情のダークが答える。
「マジックソードの操作は私にお任せ下さい」
召喚解除するとブレスレット中にダークが消える。そしてマジックソードを出す。
「これで何が出来るんだ?」
マジックソードが、そっと俺の手から離れる。そして何かの型をするかの様に動き出す。
「私はカショウ様の武器となり共に戦います。影の中でのサポートより、共に戦う事こそ力となり得ましょう!」
「坑道を出ると光のある世界。ブレスレットの中から外に出られなくなるが、その覚悟はあるのか?」
「それが最もお役に立てると思います」
「大丈夫よ、私達がいるから安心して♪」
リズとリタの声が聞こえ、一瞬マジックソードが空中でバランスを崩すと、ムーアがブレスレットに消える。まあ、反対がないのなら何とかなるだろう。
「ダーク、まだ出来る事もあるんだろ?」
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