第54話.タカオの街の領主
傷の処置が終わった頃に、ドワーフの救援がやってくる。ドワーフの救援については、かなり前からクオンが気付いていた。道のある場所までは馬車に乗れるが、後は全力疾走。
確かに、馬に乗ったドワーフは見たことがない。足の長さが関係するのかもしれないが、ハイファンタジーの世界でも時々厳しい現実を見せられる。
「ラップ様、大丈夫でしょうか?」
助けたドワーフは、ある程度の立場にある人物。ラップの様子を確かめてから、救援部隊の隊長をするドワーフが、話しかけてくる。
「コボルトから助けてもらっただけでなく、治療までして頂き、感謝します。精霊使いの方とお見受けしますが、大した腕前ですね」
精霊達はウィスプ達を残して影に潜っている。少し観察というか探られてるような感じに、俺が訝しげな表情が出てしまったので、慌てて自己紹介をしてくる。
「私はタカオの街の防衛隊副隊長のドローと申します」
「俺は迷い人のカショウ。まだアシスに来たばかりだから、礼儀や常識などは分からない」
そう言って、ライから貰った迷い人の指輪とヤッシから貰った紹介状見せる。紹介者の名前を見た瞬間、ドローの顔色が変わる。そして緊急性を感じたのか、急遽この街の領主に会わせられる事になる。
ドワーフの街に入る時は、確か通行料を取られるはずだが、ドローと一緒にいると顔パスで通される。街に入る時の通行料は、外壁の使用料という名目になり、身分問わず徴収される。
それをパス出来る副隊長のドローも、それなりに偉いのかもしれない。そして領主に会わせられた理由が分かる。それは、ヤッシの父親がこの街の領主になるからで、今助けたのはヤッシの弟。
街の領主自体は世襲ではなく、さらにその上の領主からの任命になる。だから、領主の息子だからといって偉いわけではない。
門を抜け山に向かっていく。確かに多種族が暮らしており、ドワーフ以外にも、獣人族やオニ族を見かける。
商店や食堂が立ち並び活気があるが、残念な事に見かけるのは男が多い。もともと武器や防具、商い目的に集まってくる為、長期で定住する者は少なく、男女比率の偏りは大きそうだ。
街を抜け山の麓に来る。山の麓には街の外周ほどではないが壁で囲まれている。最初に街が出来たときの外壁になるのだろうが、ここから先はドワーフ族しか入れないエリアになる。
普段では絶対に入る事が出来ない門をくぐり抜ける。山の頂上に領主の館があるが、俺達は麓の屋敷で、領主に会うことになる。この山自体が機密事項の塊なのだろう。
そして部屋で領主を待つと、そこに現れたのは細身のドワーフ。ヤッシやラップから想像出来ない姿で、年齢も若くみえる。
「驚かれましたか?この街の領主のマッツと申します」
「えっ?」
もともと礼儀作法も出来るわけではないし、何が良くて何が悪いかも分からない。そんなレベルだが、無礼である事は分かる。
ヤッシや助けたばかりのラップとは姿が全く違う。というよりは、ドワーフなのかと思う体格。
「皆さん驚かれますよ。ドワーフは槌を振るほどに身体が鍛えられ、またより槌を振る為に身体がを鍛えます。私は職人肌ではなく学者肌でね、そんなドワーフも居るんですよ」
想像とは違う姿、そして雰囲気。学者肌というよりは、狡猾な感じがする。笑顔と裏腹に、目の奥に隠された鋭さに気圧されてしまう。
そのままの流れで交渉に入ってしまう。オオザの崖の石だけの特異性だけでなくラップを助けた、交渉としては有利な条件が揃っていたはず。
30cmほどの石の塊で、100万ウェン。高額ではあるが、タカオの街のドワーフと独占契約で、守秘義務が発生する。その代わりにオオザの崖の石の秘密も教えられる。
石に含まれる成分は、武器や防具を強化する。強力なマジックアイテムや武器になればなるほど性能はピーキーになる。攻撃に特化すれば耐久性が悪くなる。1つの属性に特化すれば、他の属性との相性が悪くなり共存出来ない。
それを、解消するのごオオザの崖の石。どのように使うかは教えてはくれないが、教えられても理解すら出来ないレベルの技術である事は間違いない。
そして消費量はそんなに多く、30cmの塊で1年は使える。
「えっ?」
上手く嵌められたと思う。石を運びたくないヤッシに、安定した供給先を安く確保したいマッツ。姿形は似ていないが、親子であることに間違いはなさそうだ。
そして契約書にサインする為に、マッツからペンを受け取る。微かな違和感に、一瞬だけ固まる。
「どうしましたか?」
「アシスで文字を書くのは初めなので、少し緊張しただけですよ」




