第48話.古の滅びた記憶
「終わったのか?」
消えたゴブリンの後を追う事が躊躇われる。意味があるかは分からないが火オニの短剣を取り出して、ファイヤーボールを消えた空間に放つ。
しかしファイヤーボールは壁に当たること無く、何かに吸い込まれて消えてしまう。恐る恐る近づいてみると、降りてきた階段とは反対側にも扉がある。
そこから僅かだが風を感じ、それは空気が対流しているのではなく、確かに風が吹き込んでくる。
開け放たれた扉の外は、大きく空いた穴。底の見えない、漆黒の空間。
ハンソに石を落とさせてみるが、何の音も聞こえずに吸い込まれて消える。そっと扉を閉める。ここは触れてはいけない場所、そんな感じがする。
「あのゴブリンは、何だったんだ?」
しばらく黙っていたが、ムーアが答える。
『やっぱりゴブリンロードじゃないかしら?』
「ゴブリンキングより、危険な感じがしたけど?」
『力とは強さだけでは無いわ。戦う力はロードが上でも、それ以上のものをキングは持っているって事よ!』
石柱を破壊したからなのか、ゴブリンロードの身体は不完全だった。それでも、その攻撃力は凄まじい。
ゴブリンキングのウィンドトルネードは、大ダメージは間違いないが、直撃しても死ぬ事はないと思う。しかし、ゴブリンロードの斬撃は当たれば即死なのは間違いない。
それだけの差はあったと思うが、ゴブリンキングが上位種の存在になる。
「古の滅びた記憶ってやつか?」
『何それ?聞いたことが無いわよ?』
「最後にゴブリンロードが、言ってだろ。“古の滅びた記憶は必ずや返してもらう”って!」
『私には何を言ってるか分からなかったけど?』
「俺にしか聞こえてなかっのか?」
『違うわよ、他のゴブリンと一緒で、何をしゃべってるか分からないって事よ!』
「ゴブリンキングは奇声だったけどな」
『ゴブリンキングを倒した事が影響してるのかもしれないわね』
「それなら、俺はキングの魔石を吸収したかもしれない・・・」
『はあっ、貴方の身体はどうなってるの?魔石を吸収するって聞いたことが無いわよ!古の滅びた記憶ってやつも、それが関係してるんじゃないの?』
「言葉が分かる事が、古の滅びた記憶なのか?」
『他に何か変化はないの?背中に生えてる羽以外に?』
「えっ?」
顔を後ろに向けると、純白の大きな翼。それは両手を広げたよりよ大きい。これが失速した俺を、再び加速させてくれた。羽が生えたような感覚は、間違いではなかった。
「リズとリタだよ、この翼は!」
どことなく艶っぽい、そして人を魅了する美しさがある。溢れ出す魔力はリズとリタのもので間違いない。
『表に出る力が無い分、カショウの身体として現れたわけね。今回は許してあげるけど、次からは勝手は許さないわよ!』
ムーアがそう言うと、純白の翼が消える。
「まあ、助かったからイイだろ?」
『あなたの意志が無いところでの、勝手な行動は危険なの!』
それをムーアが言うのかと思うが、精霊同士の関係性もあると思うので、今はぐっと堪えて何も言わない。
「そういえば、魔力に匂いがする気がする」
『リズとリタの匂いがするって事?』
「そうじゃなくて、力を失った精霊や魔物の存在が分かる気がする。ただ目で見えるという感じゃなく、嗅覚で分かる」
『ゴブリンキングのやっていた事っていうのは・・・』
「ゴブリンの核を探していたんだと思う。ゴブリンも精霊と一緒で、死んで消滅する事は無いんじゃないか?時間をかけて魔力を吸収し、そして復活する」
『それが、古の滅びた記憶?』
「ムーアらしくないな。それは分からないよ。匂いなのか、言葉なのか、もっと別のものなのか?情報が少なすぎる」
『そうね、答えを急ぎすぎたわね。それじゃあ、力を失った精霊は見つけられるの?』
「時間はかかるだろうけど、大丈夫だと思う。ここに放置はしたくないだろ。」
『ヒケンの森で育った精霊達なら、助けてあげたいわ』
ゴブリンキングのしていた事がよく分かる。目には見えない、非常に小さな核。その核から出る微かな匂いを感じ取り、その周りの砂ごと器にいれる。
今はムーアが持ってきた、一升瓶のような入れ物が器になる。
同じ精霊や魔物であっても全て匂いは違い、下位のゴブリンであっても少しずつ何か変わる。
そして、俺はその違いが分かる。甘いや酸っぱい、強い弱いではない。赤い匂い、三角の匂いと言えばイイのか?とにかく不思議な感覚がする。
そして、精霊達の核を外に運び、ゴブリン達の核は穴の底へ投げ入れる。
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