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精霊のジレンマ~古の記憶と世界の理~  作者: 三河三可
トーヤのダンジョン

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第383話.冒険者の仕事

「これがダンジョン農場なのか」


 延々と広がる砂浜の終わりは見えないが、キッチリと区画整理され色とりどりの野菜や果実が成っている。キャベツに玉ねぎ·ニンジン·トマトだけでなく、リンゴや葡萄もあり、どれもが砂浜で育てられている。


「はい、ここが水ダンジョン農場です。種は外から持ち込んだもので特殊なものじゃないですが、ダンジョンの中では生育が早いみたいですね」


 確かに、1日中ヒカリスライムの光を浴びていれば、成長速度も早くなる。それでも異常なのは、気候や気温、土壌に適したものがあるはずなのに、同じ環境下で何でも育っている。


 さらに波打ち際には、稲穂のようなものも見えるし、水面にはスイカらしき縞々模様の実も浮かんでいる。


「俺の知ってる元の世界とは、全くの別物だぞ」


「私も農業には詳しくないので、これが異常かは分かりません。でも昔から低ランクの冒険者の仕事は、水ダンジョンの農作業が定番ですよ。少しランクが上がれば、その農作業従事者の警護。一応ダンジョンなので魔物が出ますから」


 冒険者といっても、ダンジョンや未踏の地を冒険しているわけではない。冒険者ギルドに所属し、そこで生計を立てているものを冒険者と呼ぶ。そして、冒険者ギルドの仕事は多岐にわたり、要は何でも屋に近い。


 ここに来た半数の冒険者は、既に鎧や小手などの防具を脱ぎ捨て、皆同じ褐色の長袖長ズボンに着替え始めている。



「お前ら、早くしねーと出荷に間に合わんぞっ!鮮度こそ命、一秒でも遅れたら価値が無いと思え~っ!」


 まだ来たばかりではあるが、早速オニ族の怒号が飛んでいる。ほっかむりをして手には金棒ではなく、鍬を持ったオニ族のどなり声。アシスでは残念な種族だと言われているが、厳つい顔にドスの利いた声には迫力がある。


「何だよ、オニのくせに偉そうにしやがって!こっちは、頼まれて仕方なしに来てやってんだぞ。下等な種族や、新米冒険者と扱いを一緒にするな!」


 そこに聞き覚えのある声がする。チェンの表情が曇り、トーヤの街で知った者が少ない俺でも知っている声の持ち主は蟲人のボーン。


「下らねえ話してる暇があるなら、さっさと仕事しろ。口じゃなく手を動かせ!ほら、お前らもだ。ぼけっと突っ立てて、少しで食われてみろ。報酬はないと思え!」


 しかしオニ達は慣れているのか、それとも忙しいせいかボーンを相手にしない。それどころか、警護依頼の冒険者にまで怒号が飛ぶ。


「おいっ、聞いてるのか!俺達が誰だか分かってんのか?お前らみたいな劣等種族が、口を聞いてイイ相手じゃないんだぞ」


 さらに食ってかかるボーンだが、俺には見えてしまった。ほっかむりから僅かに覗く3本角は、光沢のある鈍色。火や水属性といった四属性ではなく、明らかに普通のオニ族じゃない。


「ボーンか。あいつだけは、成長していないな」


「でも、冒険者をしているところを見ると、門番を首になったみたいですぜっ。それなら蟲人族の権力も関係ねえですぜっ」


 俺達が観察していると、ボーンがこっちに気付く。かなりの冒険者が居るなかで、俺達に気付けるのだから嗅覚だけは優れている。


「マズいな。気付かれたか?」


『冒険者なんでしょ。チェン、私達との違いを見せてあげなさい』


 水のダンジョンには潜入しているだけに、目立つと面倒臭いことになる。しかし、ムーアは別段気にした様子はなく堂々としている。


「姐さん、イイんすかっ。相当怒りやすぜっ」


 渋々とチェンが、ボーンに黒鎌を見せつけるようにして持ち上げると、ボーンの表情が険しくなる。


 ボーンが手にしているのは農作業用の服で、水のダンジョンには底辺の冒険者としてやって来ている。ここで許されるのは農作業だけであって、腰の剣を抜くことは許されない。


「なんで、下等種族に従わねばならん。我らは誇り高き蟲人。お前らの言いなりにはならん」


 行き場の無い怒りの矛先が、チェンから再びオニ族に向く。


「俺様が代わりに仕切ってやる。ありがた···」


 相手の力量を知らずにオニ族に食って掛かるが、全てを言い終わらない内に、オニ族の拳が飛ぶ。


 ゴンッという鈍い音と共に、ボーンは宙を舞う。インパクトの瞬間完全に顔の形は大きく歪み、もう街で見かけてもボーンとは判別出来ないかもしれない。


早速お読み頂きありがとうございます。今日のラッキーアイテムは、スニーカーです。良い1日になりますように!

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