第35話.セイレーンと精霊の命
ゴブリンの魔石はクオンが回収してくれる。ゴブリン28個、セイジ1個、キャプテン1個の30個。
その内売ることにはなると思うが、今はクオンのアイテムルームに保管する。際限なく保管出来る訳ではないが、今は荷物が少ないので問題ない。
今のところ、ブロッサがポーションの在庫を作ってくれている。容器はいつの間にかムーアが持ってきたらしく、酒造り用の水を集めるのにも使うらしい。
余裕が出来れば、ソースイの装備。状況にあった武器・防具は揃えてやりたい。
「ムーア、キャプテンを倒した後のゴブリン達の動きはどうだった?」
『混乱してたけど、その後が一瞬だったからね。あれじゃ、確認出来ないわ』
「俺が着いた時は、終わってたし。ブロッサも出る幕はなかったしな」
クオンが、魔石ではない小さな玉を咥えてくる。
「音がする、小さい音」
「どんな音がするんだ?」
「ピー、ピー、ピー、高い音」
「ムーア、分かるか?」
『いえ、全く聞こえないわ』
クオンしか分からないくらいの小さな音。
「飛んで来る、何か」
しばらくして、白い小鳥が飛んで来る。雀ほどの小さな大きさで、燕のような速さが出るフォルムではなく、所々ボロボロになっている。
フラフラになりなが、こっちを目指している。正確には音のする玉を目掛けて、真っ直ぐに。
『あれ、これって精霊よね』
「ウン、精霊ネ」
ブロッサも小鳥の存在に気付いている。
『足に何か付いてるわよ』
「これ、取って欲しいのっ」
細い足に付けられた、金属のようなリング。短剣の切先で傷付けようにも、あまりにも小さくて細い。少し間違えば足を切り落としそうなくらいに細い。
どうしようか悩んでいると、クオンが小鳥を咥える。体を咥えてひっくり返すと、足をかじり出す。
ガジガジッと噛みはじめる。もう一回咥え直して、ガジガジッと。
傍から見ると、鳥に齧りついてるネコ。美味しくはないよと言いたいけど、クオンの顔は凶暴で、それが却って美味しそうに見える。
パキッ、と音がしてリングが砕ける。
「ありがとっ」
小鳥はパタパタと飛び回って、ブロッサの頭の上に止まる。呆気にとられてたけど、やっと正気に戻る。
「何だ、これ?」
率直で簡潔な言葉。それ以上では表現出来ない。
「ピー、ピー、ピー、ピー、ピー」
小鳥が抗議してくるが、早口過ぎて“ピーピー”としか聞こえない。
「ムーア、通訳してくれ!」
『一応ね、これでも精霊なのよ、一応よ!』
「何の精霊なんだ?」
『セイレーン、音の精霊よ』
「セイレーンって、あのセイレーン?こんなのが?」
『そうよ、成長して進化すれば姿を変えるのよ。力を持った精霊は人の姿になるでしょ。セイレーンの元の姿は、鳥になるのよ』
「ふーん、ケットシーとかウィル・オ・ウィスプとかセイレーンって呼び名があるだろ。ムーアとブロッサにも呼び名ってあるのか?」
『ヒト族もオニ族も一緒でしょ。誰が付けたか知らないけど、沢山いる精霊は呼び名が付けられるの。その点、レア種の私とかブロッサは呼び名がまだ付けられてないわよ』
「そうなのか、スッキリした」
「何、話そらしてるのっ!こっち見なさいよっ」
俺を見つめる眼差しは、もしかして・・・。
「ついてくるつもりか?」
「えっ、ダメなのっ」
『諦めたら、精霊増やしたいんでしょ!』
「じゃあ、ベルな。嫌なら、シオかタレ。これ以上はないな」
「その名前、何だか寒気がするわっ」
「じゃあ、いいよ。また何処かで会うことがあったら、その時はヨロシクな!」
「ベルですっ。今日から私はベルッ!」
そう言うと、ベルがブレスレットに吸い込まれる。
「ムーア、だいぶボロボロだったけど精霊も死んでしまうんだろ?」
『精霊は死ぬことはないわ。力が弱くなれば、姿を顕在化する事は出来なくなる。だけど、風はやんでも無くなる事はない。また吹きはじめるでしょ』
「ベルも大丈夫って事なのか?」
『そうね、まだ姿がはっきりしてるから大丈夫じゃないかしら』
「ムーア達も同じ事が起きるんだよな?」
俺の不安そうな顔を見て、ムーアが続ける。
『あなたと契約中は、ある程度の消耗で召喚解除すれば大丈夫よ。消滅するまでは行かないわ』
「それなら良いけど。なあムーア、魔物が精霊を使役する事は出来るのか?」
『魔物が精霊を使役したって聞いたことがないわね』
ゴブリンに精霊達を使役する事は出来ない。ましてやゴブリンは魔物の中でも下位の魔物。それでも最上位のゴブリンなら可能になるのだろうか?
「俺達の相手してるのは、本当にゴブリンなのか?」




