第180話.リッチ戦⑤
短剣から、光る斬撃が放たれる。
光の特性を持った刃は、透明なシールドを透過し直接リッチへと届く。
俺の無属性魔法は、まだまだ未熟だという事は知っている。
上位スキルの魔力吸収が使えるといっても、自惚れる事なんて出来るわけがない。ハーピークイーンの味覚スキルの手助けがあるからこそ使えているし、それに実際に制御しているのは怒りの精霊イッショ。
しかし、それだけが理由ではない。アシスに来た時から、リッチとは比較しようもない存在が居ることを知っている。俺の着ているチュニックが無属性魔法で出来ているのだから!
どうやったら繊維の1本1本までを再現し、色まで付ける事が出来るのだろうか?俺には薄らと青い色を付ける事しか出来ない。
だからこそ、マジックソードやシールドが透明であることの利点も欠点も知っている。
「欠点を理解出来なかった、お前の未熟さの負けだな」
音は全くしない。光を照らすようにリッチに向けて1度だけ光が放たれる。頭蓋骨を縦に真っ二つにするように、細い線が走る。
しかし、リッチには特に変化は見らずに沈黙が流れる。
「ふんっ、脅かせおって。ただの虚仮威しか。どうした、もうお終いか?」
そんなリッチの挑発の言葉に、短剣に力を入れる事で応える。
ピキッ
シールドから微かに音がする。短剣の最初の一撃はシールドに傷1つ付けなかったが、今は軽く力を込めただけでシールドからの反応が返ってくる。
ピキッ、ピキッ
さらに、シールドから音がする。しかし今度はハッキリとした音が響くと、そこでリッチが異変に気付く。
「何故だ?何をした?」
さらに力を込めると、一瞬で蜘蛛の巣のような亀裂が広がる。
「マジックシールドーーッ」
マジックシールドを詠唱するが、亀裂が修復される事もないし、新しいシールドも出てこない。
「マジックシールド、マジックシールド、マジックシールド、マジックシールド、マジックシールドーーーッ」
狂ったようにマジックシールドを連呼するが、何も変化が起きる事はない。
パリンッ
遂にシールドが壊れると、短剣は頭蓋骨へと到達する。カツッという僅かな感触がして、リッチの頭蓋骨へと刻まれた細いヒビをこじ開けるように、短剣の鍔本までが一気に飲み込まれる。
「ライ、何故儂に力を、貸さな···いの···だ」
「えっ、ライだって?ライって誰なんだ?」
「我···不死···ノ王···ナ···リ」
「リッチ、答えろ。ライって誰の事なんだ?」
しかし、そこでリッチの消滅が始まり、これ以上は何も聞き出す事は出来ない。
ライという名で、無属性魔法を使える存在。それも、サークルシールドを10枚近く同時に扱う程のスキルの持ち主。
それに当てはまる存在を1人だけ知っている。アシスに来たばかりの迷い人だけれど、無属性魔法というレアスキルを使いこなし、ライという名を持つものは多くないはず。
「ムーア、ライの事は知ってるよな?」
『あの、ライの事かしら?』
「ああ、迷い人の俺の案内人を勤めた銀髪の老人。ライなら、これくらいのシールドを作れるんじゃないか」
『そうね、ライなら可能ね。もう長い間会ってはないけど、力の底は見えない不気味さは持ってるわ』
「あの爺さんは、魔物に力を貸すようなやつなのか?」
『そんな感じには見えないわ。だけど···』
ムーアの言葉はそこで止まる。否定したくはあるが、それほどまでに無属性魔法の使い手は少ない。そして召喚魔法なら、ここに姿を現さずとも力を貸すことが出来る。
「カショウ、これどうするの?」
そこにあるのは金色に輝くリッチの魔石。しかし光が当たると、七色に変色して見える。
その魔石をクオンが短剣で突ついている。七色に輝く魔石のくせに、光には弱い死霊というのが皮肉で残酷な気がする。
「クオン、欲しいのか?」
「うんっ」
収集癖のあるクオンが、大きく頷く。期待のこもった瞳で見つめられたら、ダメとは言い難い。
リッチの魔石自体に意思はないが、人や魔物を惑わせるような妖しい力を感じる。手に取ってみると、さらに妖しさは増す。
妖しく光る七色の光がネットリと絡み付くように手に纏わりついて離れない。ゴブリンロードも、この魔石の力に負けて暴走したに違いない。
しかし、俺は怒りの精神イッショと哀しみの精霊タダノカマセイレの2体と契約しているのだから、精神を惑わされて暴走してしまう事はないのかもしれない。
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