第177話.リッチ戦②
今章は今週中で終わり、閑話を挟んで新章の予定となります。
弱っているとはいえ、それでも哀しみ精霊であるタダノカマセイレ。姿を顕在化出来なくても、ある程度の力を行使出来る。
契約時は力を借りることは無いと思ったが、今は契約して良かったと思う。
「ヴアアアァァァーーーッン!」
もう聞く事がないと思っていた野太い泣き声が轟くと、寒気というか冷気が辺りを包み込み、辛うじて熱気から守ってくれる。
爆発が収まった後は、時間差を付けてカショウ酸と名付けられたワームの酸がオネアミスの毒へと変わり、そして再び燃え上がり高温を維持する。
カショウ酸という名前だけは変えさせないといけない!この名前が広がると、きっと俺の名前は破壊をもたらす者のイメージが付いてしまう。
しかし、その中でもリッチの魔力は消えておらず、上位クラスの魔物である事は間違いない。ただゴブリンロードを現し身にしようとしていた途中であるだけに、完全な力を発揮は出来ていない。
「それでも、この爆発と高温に耐えるのか」
『良かったでしょ!私達が何もしなかったら、きっとリッチは無傷よ』
「そうだな、巻き込まれても俺が消滅しないと計算してくれてたなら、何も言わないんだけど」
『大丈夫よ、そこはガーラとシナジーが上手くやってくれるから。私は心配していないわ』
「少しは心配してくれよ!」
そんな話をしながらも、アースウォールを維持し続ける。熱によってアースウォールが溶けてゆくが、溶けるのはそれだけではない。洞穴も同じで、所々で大きく形を変えてしまっている。
恐らく洞穴はもう塞がっていて、これ以上は先に進むとこは出来ないだろうと思いつつも、今はただ熱気が収まるのを待つしかない。
しかし、ここでもハンソが強さを見せる。この熱を何とも感じていないのか、アースウォールを指でつついている。
「ハンソ、熱くないのか」
「エトッ、エトッ、エトッ」
「石焼きプレートより熱くなっているぞ!」
「ントッ、ントッ、ントッ」
今になって、熱いフリをしても遅い。それはしっかりとソースイに見られ、今リッチが動き出せば、間違いなくハンソは召喚攻撃に使われるだろう。
そしてハンソの弱点の少なさを目の当たりにすれば、他の精霊達の競争心を掻き立てしまう。
今は、リッチが動き出さない事を祈るしかない。
少しずつ熱気が収まってくる。やはり洞穴の天井は完全に溶け落ちて塞がっている。 これ以上の大規模な攻撃は、さらに洞穴の崩落を招く可能性があるので使えそうにない。
そしてリッチは、大きく姿を変えて溶けた壁に埋もれている。そこに埋もれているのは全身の骨ではなく黄金の頭蓋骨で、元のゴブリンロードの骨は消滅してしまっている。
しかし醸し出す不気味さは変わらないどころか増している。
「これがリッチの本体って事か」
『そうね、ゴブリンロードがリッチの現し身として狙われたのね』
「やっぱり、体があった方がイイのか?」
『そうね、手や足があった方が魔法は発動させやすいわ』
「初めて聞いたな。ライはそんな事を教えてくれなかったぞ」
『手足みたいに細いなる部分があれば、魔力を集中させ易いのよ』
「なる程な、頭蓋骨だけだと魔力を集中させ難いのか。だからゴブリンロードの手足の肉が無かったのを都合良く利用したのか」
『そんなところでしょうね。上位の魔物といっても、楽したいもの』
わざと聞かせるように俺とムーアが会話していると、リッチの頭蓋骨に魔力が集まる。
「ウィンドカッター」
そして、リッチの詠唱してのウィンドカッターが放たれる。リッチも俺の前にはマジックシールドが展開しているのは分かっている。
それでも1度粉砕しているだけあって余裕はあるのだろう。
バシィィィーーーン
しかし今度は、マジックシールドは粉砕されない。
「詠唱したのに今度は壊れなかったな。どうした、もう終わりか?あれだけの爆発に巻き込まれた後だとダメージが大きいだろ。下位魔法じゃないと体が持ちこたえれないんだろ」
『やっぱり、発動した魔法に耐えるだけの体が必要なのね。頭だけじゃダメなんでしょ!それに強がってるけど、リッターの光も影響してるわね』
「今度は、こっちから行こうか」
マジックソードをリッチに向けると、眉間に向かって一気に突き刺す。
「マジックシールド」
今度はリッチがハッキリと“マジックシールド”と詠唱して、サークルシールドを展開する。
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