第176話.リッチ戦①
リッチは完全な体ではないが、それでも魔法の威力は高い。下位魔法のウィンドカッター1つで、俺のマジックシールドをあっさりと破壊してしまう。
下位魔法でも俺達を圧倒出来る力があるのに、性格は非常に用心深く体の回復を優先している。
ウィンドカッターの攻撃も、不意打ちの攻撃でしかなく力量の差を見せつけただけに過ぎない。
何故そう感じるかといえば、リッチは常に守りを優先する。
ナルキのマジックソードの攻撃も、俺の「側面から狙え」の声に反応して、まず守りを固めた。
今も「左右から挟み込む。接近戦で勝負する!」と言えば、まず接近戦に備えて守りを固める。
魔法攻撃に対しては絶対の自信があるが、物理攻撃に対しては魔石が損傷してしまう万が一の可能性がある。骨だけの体では衝撃を防ぐものは無く、僅かな危険性を回避しようとしているのかもしれない。
それがどんな相手であっても、癖となって染み付いてしまっている。永く生きれば生きるほどに、その癖は無意識の行動となる。
だからこそナルキやダーク達の攻撃を警戒して、俺の無詠唱のウィンドトルネードに少し遅れをとってしまう。
その後に放たれたブロッサのポイズンブレスは、毒自体がリッチの体に影響を与えない。物理的衝撃を発生させない魔法であれば、リッチにとっては無視するべき存在になる。
急に酒臭い霧が周囲に立ち込め始める。この霧もリッチには何の影響を与える事も出来ない。
しかし、俺とムーアやブロッサもほくそ笑む。リッチの表情が分かるとすれば、今はどんな表情をしているのだろうか?
余裕綽々か、それとも嫌な予感や胸騒ぎを感じているだろうか?
足元にはゴブリンロードの手から零れ落ちた王冠が、嫌な予感を感じ取ったらしくコロコロと転がってくる。
「おい、冠野郎。巻き込まれたくなかったら、影の中に引っ込んでろ。お前は後からだ!」
そう言われると、王冠はピタッと動きを止めてしまう。今さら、自分には意思も思考もありませんは通用しない。
影から出てきたコミット咥えられてに、再び影の中へと連れていかれる。
「アースウォール」
そして攻撃から一転して、巨大な壁を作り出すと同時に、ウィスプ達がサンダーボルトを放つ。
ドォオオオオーーーン
サンダーボルトに反応し、大きな爆発が起こる。アースウォールを補強するようにミュラーの盾が現れる。それでもアースウォールを発動し続けなければ、壁は消失してしまう。
少しずつ爆風が収まるが、熱気はまだまだ上がり続ける。
「ムーア、ちょっと遣りすぎじゃないか?あの霧は少し細工しだろ!」
『だって本気じゃないと、倒せないでしょ』
「そうね、面白いけど洞穴向きじゃないワネ」
ムーアの撒き散らしたポイズンブレスは高濃度のオネアミスの毒。毒性も強いが、それ以上に問題なのが可燃性。
それが問題となり使い勝手が限定され、森の中では使う事が出来なかった。洞穴の中の閉鎖された空間でも扱う事は難しい。
しかし毒性のブレス攻撃が、爆発し物理攻撃に変わる。リッチの裏をかけるかもしれない攻撃の為、相性の悪い洞穴の中でも限定的に使う予定だった。
しかし、それにムーア・ガーラ・シナジーが悪ノリしてしまう。まずはムーアが作り出した高濃度のアルコールを使うことで、オネアミスの毒の爆発力を高めようとする。
それにシナジーが霧として充満させる事を提案し、さらにはガーラがワームの魔石から発生させた酸も混ぜることを提案する。しかもこの短時間で酸が揮発しやすいように改良し、カショウ酸と勝手に命名までしている。
その結果、オネアミスの毒だけでなく、ムーアのアルコール、カショウ酸の配合された霧が作り出される。
そして、それがこの結果を引き起こす。爆発力が高まるだけでなく温度が飛躍的に上がる。またカショウ酸がオネアミスの毒に変わる事で、爆発が繰り返される。
「確かに破壊力は高いけど、いきなりはダメだろ」
『あら、ソースイとハンソは良くて、私たちはダメなの?一応は確認したわよ』
俺と精霊達は、特に会話をする必要はない。思いや考えは、言葉に出さなくても伝わる。だから接近戦をすると言って、魔法攻撃を仕掛ける事も可能。
しかし精霊達が何を話して、何を企んでいるかは分からない。ベルのスキルで何を会話しているかを知る事も出来るが、それは踏み込んではいけないプライバシーだと思ってきたが···。
これ以上好きにさせるのは危険かもしれない。
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