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精霊のジレンマ~古の記憶と世界の理~  作者: 三河三可
クオカの洞穴の死霊
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第172話.ゴブリンロード戦③

 ゴブリンロードは、少しずつ王冠に近付いてゆく。しかし、何故かそれを止める気にはならない。


『大丈夫なの?』


 流石に心配になったのか、ムーアがもう一度聞いてくる。


「大丈夫だろう。王冠は、“力を示せ”と言っている。大義名分や血統を示せとは言っていない」


『今のゴブリンロードには、力はないと言いたいの』


「ああ、リッター達の光が無くても勝てそうな気がする。オオザの崖で見た時のゴブリンロードじゃない。不完全な体だったけど、あの時の方が強い気がする」


『あら、私達も強くなってるのよ』


「それは分かってるよ。だけど黒剣は、もうゴブリンロードに力は貸してはくれない」


『その根拠な何なの?』


「最初に放った斬撃だけど、上位魔法が行使出来るくらいの魔力が込められていた」


『それにしては、簡単に防いでいたわよ』


「そうなんだ、込められた魔力程の威力はない」


 俺の精霊樹の杖もソースイの漆黒の盾も、流した魔力を増幅してくれる。俺の場合は、魔力を増幅し過ぎて扱いが難しくなるが、魔力量の少ないソースイは漆黒の盾から受ける恩恵は大きい。


「漆黒の盾と対になる剣ならば、そんな効率の悪いマジックアイテムではないだろう。だけどオオザの崖で放った斬撃は違う。不完全な状態で復活したばかりで、そんな魔力を込めた攻撃が出来るとは思わない」


『そうね、でも推測でしかないわよ。あの時は魔力を感じとる事も出来ていないんだから』


「そうだな、精霊樹の杖にも漆黒の盾にも似た臭いを感じるんだ。杖と盾で、形や素材も違う。だけど共通する事が1つだけある」


『それは、何なの?』


「両方とも、所有者を選ぶんだ」


『漆黒の盾も所有者を選ぶの?』


「知らなかったのか?ホーソンと一緒に検証しているから間違いない。漆黒の盾のスキルが発動するのは、ソースイだけなんだよ」


『私に黙って、そんな危険な検証をしていたの?』


「その時は知らなかったから仕方がないよ」


 精霊樹の杖は所有者を選び、認められない者は使うことを許されないだけでなく破滅をもたらす。何故黒く姿を変えられていたかは分からない。推測でしかないが、存在を隠すためなのか、それとも破滅をもたらす力を抑え込むためなのだろう。


 そしてソースイの持つ漆黒の盾にも、精霊樹の杖と似た臭いを感じる。精霊樹の杖ほどではなくとも、所有者と認められなければ力を発揮しない。


「俺やホーソンが持つとただの盾でしかないが、ソースイが持つとスキル発揮してくれるんだ」


『漆黒の盾のスキルが、ゼロ・グラビティなの?』


「正確にはスキルの反転だと思う。ソースイのスキルが重さを増幅するなら、漆黒の盾は重さを減衰する。ただ、ソースイしか使えないから、これ以上は分からないけどな」


『まあ、嗅覚スキルなら信用は出来そうね』


 だからゴブリンロードが、魔力任せの燃費の悪い攻撃をしてきた時点で、ゴブリンロードと黒剣の関係性は終わっている。

 ゴブリンロードが黒剣を落としたのではなく、黒剣の方がゴブリンロードから離れる事を選んで不自然な落ち方をした。

 目の前に現れた王冠を見て、簡単に黒剣を諦める事が出来るのだから、関係性が破綻するのも仕方ない事だろう。


『もう王冠に手が届きそうよ』


「心配ないさ。黒剣ですら力を貸す価値を認めていない者に、王冠が力を貸すとは思わない。ゴブリンの中じゃ、王冠や杖の方がキングとしての象徴なんだろ」


『そうね、精霊樹の杖は力だけじゃなく破滅をもたらすかもしれないのよね』


 そして、遂にゴブリンロードの手が王冠へと届く。まともに黒剣の柄を掴むことすら出来なかったのに、吸い寄せられるように右手が王冠に届く。

 もうゴブリンロードの顔は原型を留めておらず、左目は完全に外へと飛び出し、右目もかろうじて留まっている程度でしかない。普通ならば、すでに視覚は失われている。恐らくは、聴覚などの五感もすでに失っているだろう。


 それでも、“力を示せ”と発する声はゴブリンロードに届いている。耳にでなく頭へと直接響く声がゴブリンロードを王冠へと導き、それが選ばれた存在であると錯覚させる。


 王冠を手にした瞬間、ゴブリンロードは口が開く。笑ったのだろうか、それとも何かを発したのだろうか?それすらも出来なくなっている。

 そして、王冠に触れた瞬間に右腕は完全に白骨化し、それは全身へと広がってゆく。

お読み頂きありがとうございます。

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物語はまだまだ続きますので、引き続きよろしくお願いいたします。

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