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精霊のジレンマ~古の記憶と世界の理~  作者: 三河三可
クオカの洞穴の死霊
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第171話.ゴブリンロード戦②

「違う、私は手に入れたのだ。完全な姿を」


 しかし右腕の皮膚は完全に溶けてなくなり筋肉が剥き出しとなっている。そして、その筋肉も溶け始めている。


「光はダメみたいだな」


「そんな光ごときで、この私に何が出来るというのだ」


「存在が消えかけてるのは分かってるんだろ」


「幻覚だ。こんなもの、陳腐な幻覚に違いない。私はこんな姑息な手に引っ掛かりなどはしない」


 しかし、黒剣を構えた手は力なく、次第に下へと落ち始める。そして剣先が下を向くと、黒剣を伝って溶け出した皮膚や筋肉が滴り落ち、水溜まりをつくり始める。

 しかし、水溜まりはこれ以上は広がる事はなく、キラキラと輝き消滅してゆく。


「幻覚じゃなくて、残念だったな。もう終わってるんだよ」


 ゴブリンロードは俺を睨みつけるだけで、何も言わない。少し大きく深呼吸すると、今度は黒剣を大きく振り上げる。しかし再び黒剣を握る手に力を入れれば入れる程に、身体の崩壊は加速する。

 崩れてゆく体で、もう俺達全員を狙った攻撃は出来ない。可能なのは、精霊達の召喚者である俺のみを狙った一撃。


 そして、頭上に掲げた黒剣を振り下ろす。


 ガツッ


 斬撃を放とうとしたのだろうが、黒剣からは何の反応も起きない。それどころか黒剣はゴブリンロードの手から離れると、地面へ自由落下するようにして落ち、垂直に突き刺さる。


 慌てて黒剣を掴もうとするが、ゴブリンロードの右手の指は、すでに白い骨だけとなっている。

 左腕や右脚の金色に輝く骨とは違い、普通の白い骨が剥き出しとなった右手は、もうゴブリンロードの意思で自由に動く事はない。


 それに反して金色の骨で出来た左手は、簡単に黒剣の柄を掴むと、じっとしたままで動かない。

 左手だけで黒剣を引き抜こうともせず、まるで右手が来るのを待っているかのように、柄を持ったまま静止している。


「動きがおかしいな」


『右手が使えないとダメなのかしら?』


「それでも左手で黒剣を引き抜いて、右手に掴ませるくらしいしてもイイだろ」


『じゃあ、右手を拒んでるのかしら?』


 動かない右腕と、正常に動く左腕でチグハグな動きを見せ、とても同じ体のものとは思えない。

 金色の左腕は骨だけなのに、何故かその動きは力強さを感じさせる。そこはかとない不気味さが、近付くことを躊躇わせる。


「どうなってる、約束と違うではないか」


 ゴブリンロードが、辺りを見渡すようにして叫ぶが、何の反応も帰ってこない。


「まだ肉が足りないのか、それとも血が足りないのか!そうか、下等な肉ではダメなのなら、ジェネラルの肉を捧げよう!」


 しかし、ゴブリンロードの叫び声が大きくなっただけで、やはり変化が起こる事がない。

 そうしている間にも肉は溶け落ち、遂に左脚で体を支える事が出来なくなり片膝をついてしまう。


「私はキングとなる存在。私こそ王冠を戴く者。何故、私の呼び掛けに応じない!古の滅びた記憶が必要なのか?それとも王冠が必要なのか?俺には王たる証を持っていないからなのか?」


 その時、どこからか声がする。


「力を欲する者よ、まず己の力を示せ!」


 かなり近い所から声がしている気がするが、周りを見渡してみるが何も見当たらない。


『どうしたの、何かあったの?』


「声がしなかったか?“力を示せ”っ言ってたような?」


『何も聞こえないわよ。ねえ、ブロッサ』


 他の精霊達を見ても、何も聞こえていないようで一様に首を横に振る。すると、影の中から何かが飛び出してくる。


“気味悪い、コレ”


 そう言って、クオンがゴブリンキングの王冠を影の外へと投げてくる。放り投げられた王冠は、少し転がると俺とゴブリンロードのちょうど間で止まる。


 その王冠は、ただ“力を示せ”と連呼している。


「声の正体はコレか!」


『気味悪いわね。本当にそう言っているの?私には呻き声にしか聞こえないわよ』


 音としては小さいが、直接頭の中へと話しかけてくるようで声は鮮明に分かる。そして、ゴブリンロードも王冠の声が聞こえるらしく、這いつくばるようにして王冠の方へと向かっている。

 この声が理解出来るのは俺とゴブリンロードの2人だけ。


「聞きたくはないけど、これも古の滅びた記憶のせいだろうな」


「便利そうだけど、羨ましくないわね」


「好き好んで聞けるようになったわけじゃない。滅んだ種族の声なんて、重荷でしかない!」


『あら、ゴブリンロードを放っておいて大丈夫なの?』

お読み頂きありがとうございます。

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物語はまだまだ続きますので、引き続きよろしくお願いいたします。

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