第168話.代理契約
「なあ、ムーア。代理契約者って可能なのか?」
『代理契約って、カショウはどういう事をしたいの?』
「ハンソの事は、ソースイが一番良く理解している。それなら、召喚する権限をソースイに与える事は出来るのか?」
『カショウは、その代理契約に何を望むの?』
「契約する精霊が増えても、俺一人じゃ限界がある。全ての精霊がムーアやナレッジみたいに、判断して行動出来るわけじゃない。それに、俺よりもソースイの方がハンソの事を理解している。それなら、ソースイにハンソを任せた方が良いような気がするんだ」
『カショウが望む代理契約なら出来ないことはないわ。ソースイもカショウとは契約している訳だから、ソースイとハンソは同格の存在。後は2人の問題になるけど、すでに主従関係みたいな繋がりが出来ているわ』
「つまり、可能って事だな」
『だけど問題を引き起こすリスクは大きいとしか言えないわ。カショウとソースイの指示が同時だったらどうするの?ソースイの指示がカショウの思った通りじゃなかったらどうする?』
「それは簡単だ。常にソースイが優先に決まっている。ソースイ以上にハンソと意志疎通出来ないんだから、ソースイが優先になるだろ。それで結果が上手くいかないなら、俺の責任でしかない」
『それともう1つ。カショウは、他の精霊にも同じ事を望むの?』
「今はハンソ以外には考えてない。俺が指示しなくても、精霊達同士で上手くやってくれてるだろう。だけど今後ハンソみたいな精霊が出てきたり、それを望む精霊がいれば考えるかもしれない。だけど無理矢理にも代理契約するつもりはないぞ」
『それなら、他の精霊達も安心すると思うわ。カショウならそんな事はしないと分かっていても、これは聞いておかなければならないから』
「そういう事なら代理契契約の狙いは違うんだ。俺だけじゃなくて、ソースイやホーソン、チェンと相性の良い精霊もいるだろう。俺が魔力を供給する事で、そんな精霊とも契約出来るなら悪くはない事だと思う」
『そういう事ね分かったわ。それなら、早くソースイとハンソで代理契約を結びましょう。そこから新しく見えてくる事もあるわ。だけど、まずは2人に説明してからね』
「それなら、全員に話をした方がイイだろうな」
代理契約の話をする為に全員を集めるが、まずはソースイとハンソになる。
「そんな、私なんかで宜しいのでしょうか?責任が重すぎます」
今までは従者の一人でしかなかったが、代理契約すれば精霊使いになる。ハンソとはいえ精霊を任され、その責任は明らかに大きくなる。
カショウから認められた事による嬉しさはある。しかし自分一人の失敗ではなくハンソへの責任も負う事になる。これまでに感じたことのないプレッシャー。これまでも失敗はしてきたが、これからは自分一人の責任という気楽さはない。
「そんな、気負わなくて大丈夫だ。あくまでもハンソを召喚する権限があるだけで、責任は俺にあるんだから」
『あくまでも代理召喚の契約よ。ダメだと判断されれば、その時点で権限はなくなるから安心しなさい』
「ムーアは厳しいな」
『そこは、ハッキリしておかないと』
「ということだ、ソースイ。あまり深く考えないで、まずやってみたらどうだ。上手く行けばイロイロと出来る事も増える。現状でもハンソと一緒なら、ソースイも都合が良いだろう」
「確かに、そうですが···」
「それなら問題ないだろ。ハンソはどうなんだ」
「ントッ、ントッ、ントッ」
相変わらず、“ントッ”か“エトッ”を繰り返すハンソ。俺達には同じにしか聞こえないが、ソースイには僅かな発音やイントネーション、長さで違いが分かる。
「ソースイ、これは何て言ってるんだ?」
「ああ、これは問題ないって意味です」
「ントッって3回繰り返してるけど、問題ないって言ってるのか?」
問題ないなら、1回の“ントッ”で済むはずだが、何故か3回繰り返される“ントッ”は不思議になる。問題ないといっても、渋々なのか是非ともなのかで意味合いは大きく変わる。
「1回目のントッが、こき使われるのが嫌。2回目のントッが楽な方がイイ。3回目のントッが契約問題ないと言ってます」
「エトッ、エトッ、エトッ、エトッ」
明らかに慌てふためくハンソ。
「これは俺にだって分かるよ。図星だな」
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