第166話.ワームの最後
「ナルキ、魔石を壊せ!」
ワームの魔石の表面に薄らとヒビ割れが入る。次第に魔石の輝きも、明暗がハッキリと分かれる。明るい部分はより明るく、暗い部分はより暗く。
規格外といえる大きさに成長したワームは大量の魔力を必要としていたが、一瞬で体のほとんどが消滅してしまった。
魔石に内包された魔力は、行き場を失い暴発寸前に感じられる。魔力が暴走すれば、爆発するのかは分からない。ただ大規模な地盤沈下が、ワームの酸やオネアミスの毒だけで引き起こされるとは考え難い。
そんな、直感的なものでしかないが、その直感が正しければ内包された魔力が爆発すれば洞穴がどうなるかは分からない。
ヒビ割れがさらに大きくなり、魔石が膨らみ始める。
「俺様に、任せな!」
「イッショか、頼んだぞ!」
俺の指示を催促してきたイッショは、すでに見切りで動き出している。魔力吸収スキルは直接相手に触れる必要はなく、離れていても魔力を感じ取れさえすれば良い。
魔力吸収で爆発させないのが最善ではあるが、爆発してしまっても威力は軽減される。
イッショの触手に遅れてマジックシールドで魔石を押さえ込みに行くと、ミュラーの盾が、無防備になった俺を守るように現れる。金属ではあるが表面は鏡のように仕上げられている。裏側は光沢のない、いぶし銀のような色で何の素材かは想像出来ない。ただ、異世界のワクワクさせるような材質のような気がする。
そして、ミュラーは特に指示しない限りは、俺を守る事を優先とし、盾しか具現化しない。ウィスプやダークと攻撃向きな精霊が多い中で、防御特化を選ぶ事で存在意義を示しているのかもしれない。
ナルキのマジックソードがワームの魔石に触れる瞬間に、閃光が走り魔石が砕け散る。
ドゴッ、ドゴッ、ドゴッ
爆発したにしては、地味な音がする。ナルキを通して、マジックソードが魔石に触れた感触はあったので、攻撃はギリギリ間に合ってくれたのかもしれない。
しかし、無数の細かく砕けた魔石が飛び散り視界を遮る。キラキラと輝く魔石のせいで、魔石がどうなったかは見えない。
さらに大量に舞い上がった細かい魔石の欠片は、地面に落ちる前に瞬きながら消滅してゆく。見た目の美しさとは裏腹に、最後にとばかりに酸やオネアミスの毒を放出しながら。
魔石の欠片は広範囲に飛び散り、俺にも降りかかってきたが、フォリーがシェイドで一瞬にして消し去ってしまう。
その他の欠片は、イッショの操る触手が魔力吸収スキルで面白いように無効化してゆく。魔石が細かくなった事や、吸収するのが魔石に内包された魔力1つだけである事など、イロイロな要素もあって、掃除機で吸い取られるゴミのように欠片が消えて行く。
「掃除機だな」
おれの呟いた言葉に、イッショが反応する。
「カショウ、ソウジキとは何なんだ」
「ああっ、それはな、。俺の居た世界での最高の褒め言葉だよ。No.1みたいなことかな···」
「そうか、そうと分かっているなか、俺様をソウジキ・イッショと呼ぶがイイ!」
『そんな事を言ってると、また名付けになるわよ。永く契約していれば、契約者と精霊の繋がりは強くなるのよ』
「そうなのか。そうだったら、名前が変わってしまうのは良くない。魔力吸収スキルはイッショが制御してくれないと、今みたいな性能は出ない。安易に名前変えて最初の頃に戻るような事があったら、また特訓のやり直しになる!」
『特訓するなら、この前よりも皆強くなってるわ。前よりも時間は短くすむわね』
「そっ、そうか、カショウがそこまで俺様の事を認めているなら、今のままで良いぞ!」
そんな話をしている間にも、欠片の魔力は吸い取られ、目の前には残されたワームの魔石が露になる。
地面に転がった、拳大の魔石が20個ほど。元の輝きもなく、少し暗い感じがする。
「意外と、残らなかったな。もう少し残ってくれるかと思ったけど」
『ラミアだって残されたのは、目玉サイズの魔石が2つよ。それと比べたら十分じゃないかしら。そうよね、ガーラ?』
ムーアに話を振られたガーラは、何も言わずに魔石に向かって行く。
やはりとは思ったが、何回か魔石を舐め始めると、おもむろに咥える。子供が飴でも舐めるかのようで、ガーラも満足気にしている。
「ガーラ、大丈夫か?」
何が大丈夫かとは、あえてハッキリとは言わない。
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になる』『面白い』と思って頂けたなら、“ブックマーク登録”や“評価”、“いいね”をお願いいたします。
物語はまだまだ続きますので、引き続きよろしくお願いいたします。