第165話.ワームの狙い
ワームの体の中に、青く光る魔石が見えてくる。まだ距離はあるが、魔石は俺よりも明らかに大きい。
自身の体を分裂させて逃げ続けたが、急激に低下してゆく魔力では体を思うように動かせなくなる。
元の大きな体を動かすのには、それに見合った大きさの魔石が必要で、魔石自体にもそれなりの重さがある。力が落ちれば、その魔石自体の重さが負担になってしまったのも原因だろう。
この長い体の反対側まで追いかける事も覚悟したが、4·5回の分裂をしただけで魔石を見つける事が出来たのは想定外だった。
回数が少ないといっても、ワームは500mは体を切り捨てている。それでも、体の終わりは見えていない。
そして俺達が魔石を見つけると、ワームは急に動かなくなる。今までは力が落ちても体をくねらせ、少しは抵抗を見せていたが、パタリと動きが止まる。
「死んだふりか?怪しいな」
『そうね。体が消滅が始まっていないんだから、死んでないことは分かるのに』
「体の割には、脳ミソは小さいのかもな」
『最初の分裂で、脳ミソを切り捨てたのかもしれないわ』
1度だけワームの体が脈動した気がするが、その後は全く動かない。まあ、ワームが生きていようが、死んでいようがやる事は変わらない。
「ウィンドトルネード」
「エーートーーッ」
魔石が見えた事で、もう召喚される事は無いと油断していたハンソが、情けない声を上げて飛ばされる。そして魔石を通り越した先で、頭から落下する。
「ハンソ、またサボったふりしてると、石焼きプレートにするぞ!」
「エトッ···。ントッ、ントッ、ントッ」
『ハンソ、サボってたの?良く分かったわね』
「何か理由か原因があるのかもしれないが、そんなところだな。だけど短時間で、ワームの魔石を捕まえたのもハンソがいたからだし、今はそこまでは求めないさ」
『そう、カショウがイイなら私も何も言わないわ、今はね!』
そして魔石の逃げ道を塞がれたワームは、今さら方針転換する事も出来ずに、初志貫徹でピクリとも動かない。
一発逆転を狙っている事がばれているのに、俺達が油断して無防備に近付く事はない。それでも隙を見せるかもしれないという少ない可能性に一縷の望みを掛けている。
だから俺の動きにのみ集中して、他がどのような動きを見せても目もくれない。それを分かって、あえて焦らすようにゆっくりと近付く。
「悪いけど、付き合ってはやれない。ダーク、やってくれ!」
俺の合図で、ワームの胴体の中ではなく外で待機していたダークがが動き出す。魔石のある位置を通り過ぎると、紫紺の刀がワームの胴体のを切り裂き始める。紫紺の刀はシェイドを放ちながら舞うように、ワームの胴体を一瞬で半分近く切断する。
そこで始めてワームが異変に気付く。痛覚でなく魔力が低下した事での異変。
胴体が完全に切断されれば、魔石のない部分は消滅するしかない。切断されれば魔石がある方が残り、分裂すれば大きく力が落ちる。巨大すぎるくらいに成長しすぎた体の大半を失えば、ワームは動くことも出来ないだろう。
『やっぱり、知能が足りなかったみたいね』
「経験不足の影響も大きいな。地中の限られた空間だけで戦ってるから、こんな事に気付けないんだよ」
しかし、今さらそれに気付いてもどうする事も出来ない。ハンソの岩が重石となり動きが制限され、また無理矢理体を動かそうとすれば傷口が裂けてしまう。
どうする事も出来ずにただ固まるしかなく、その隙にダークが紫紺の刀で完全に胴体を切断してしまう。
切られた瞬間からワームの消滅が始まる。切られた箇所からではなく、全体が一斉にキラキラと消滅してゆく。巨大な体だけであって、完全に消滅するまでには少し時間がかかる。
「この光で、別の魔物を呼び寄せそうだな」
『そうね、黒幕にはすぐ伝わるでしょうね』
「後は残る本体だけ···」
と言いかけた時に、本体である魔石側のワームの体がキラキラと輝き始める。いくら再生が可能であっても、消失部分が大きすぎたのか存在を維持出来なくなったみたいだ。
「ワームの奥の手は見せずじまいだったな」
『待って、魔石がおかしいわ』
ワームの大きな魔石から、ピキッと音がする。魔石に内包された魔力にムラが出来始め、不安定な状態になっている。
「ナルキ、魔石を壊せ!」
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