第163話.覚醒した姿
「カショウ、ハンソの召喚を解除しよう!そうすればシェイドを避けて、ハンソをブレスレットに戻せるかもしれない」
「おっ、おう。分かった」
召喚を解除するのに、特に何かを言う必要もないので、俺がそう思えばハンソとの召喚は切れる。
しかし、ブレスレットからは何の反応もない。ただハンソが居るという気配はある。
「うっ、うっ、あっはっはっは~っ」
「グッ、グッ、グフッ」
「くっ、くっ、くっ」
そしてブレスレットの中から、笑い声が聞こえてくる。堪えたが限界に達したようで、1人が笑いだすと連鎖して広がる。
「どうした、何があった?大丈夫かなのか?」
「カッ、カショウ、おっ、おっ俺様の存在意義が薄れる。力が失われる。存在が消滅してしまう」
「カショウ、早くハンソを召喚して。このままだと、イッショが消えてしまうよ」
ハンソは無事にブレスレットの中に戻ったようだが、何か異変が起こっている。ハンソがワームの何かを連れてブレスレットの中に戻ったのかもしれない。危険があったようには感じないが、ナレッジの声はかなり緊迫している。
「ハンソ、出てこい!」
ハンソを召喚すると、そこに現れた光沢のある姿のハンソ。テカテカとした姿のハンソ。その姿を見た精霊達は、次々と笑いだす。
「ショットブラスか!」
『何なのそれっ。知ってるなら何とかしなさいよ!』
影の中に逃げ込みたいが、まだワームが残っている。
「ナルキ、任せる。お前の責任だからな!」
「えっ、何で?ボクは何もしてないよ」
「ダミアの実をハンソにぶつけたろ。だから、ハンソの表面の汚れが落ちて綺麗になったんだよ」
「えっ···ボクが原因なの?」
ナルキは反論出来ずに、しぶしぶとハンソの体を蔓や蔦でグルグル巻きにして姿を隠す。
「これで、イッショも大丈夫だろ」
ハンソの召喚を解除して、改めてワームを見ると巨大な体が消滅を始めている。シェイドの影響がなく、消滅を始めるということは巨大な体のどこかにある魔石が損傷したのか、それとも切り離されたのかもしれない。
「ミミズみたいな存在なら、分裂しても再生するんだろうけどな」
『流石に魔石がなければ、無理でしょう。それが魔物なんだから』
「それなら、体の全てが消滅してくれたのを確認する必要はないか」
ワームの体の終わりは見えていない。ワームの魔石が頭にあるのか、それとも胴体の中央にあるかは分からない。
頭となる部分には触手があり、守る事も出来るが攻撃に晒される部分でもある。しかし、切り離して逃げる習性があるならば、先頭に魔石があるとは考えにくい。
そして、ワームの消滅はハンソの居た場所まで終わり、そこから先は切り離された本体が逃げている。
「ミミズみたいな体で後退出来るのは、流石は魔物って感じがするよな」
『喰らい尽くすだけのワームじゃないから、岩峰のワームよりは知性があるのかしら』
「取り敢えず、触手の再生が始まると厄介になるから、その前に倒すしかないな」
戻したばかりのハンソを再び召喚する。ウィンドトルネードでハンソをワームの中へと飛ばし、ワームの重石とする。後は単純作業を繰り返しになるが、今度はガーラが前に出てくる。
「ワームの魔石、欲しい。酸の秘密が分かれば対応出来るはず」
『そうね、順番に行けば必ずどこかで魔石には当たるわ。カショウ、それでも大丈夫?』
「ああ、分かったよ。今度は魔石を確保するから、フォリーもナルキの加減してくれ」
「ボクも賛成!酸の秘密は重要だよ。ダミアの実には気を付けるから任せて」
ナルキは、ハンソの姿を隠す仕事から解放される事が分かると、真っ先に賛成を表明する。
「かしこまりました。それでは、私は影の中から援護させて頂きます」
フォリーは、全力で力を行使したせいか少し興奮が収まり、口元の笑みは消えている。今は何時もの冷静な顔に戻り、普段通りに戻っている。
集団の中でも、やはり個が個である瞬間は必要になるのだろう。全てが好きなように、自由に出来るわけではない。
制限される事を率先して受け入れてくれる、フォリーやマトリ、クオンにも発散したり力を解放させてやる機会が必要なのだろう。
「地面の陥没、ワームの土を溶かす酸、捕食されるスケルトン、ゴブリン、少しずつ繋がりが見えてきたような気もするな」
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