第159話.ハンソの覚醒
精霊樹の杖に魔力を込め風を纏わせつつ、ハンソを見つめる。
「俺の準備は万端だ。いつでも行けるぞ!」
「ントッ、ントッ、ントッ」
「そうか、3つ目か。1つ目を選ぶかと思ったけど、中々攻撃的な性格をしていたんだな!その方が、俺もやり易くなるよ」
「エ···」
ハンソを一旦召喚解除する。何かを言いかけたような気がするが、了承の言葉だったのだろう。
契約とういう名ではあるが、俺も精霊もお互いに協力関係で対等だと思っている。皆が同じくらいの能力ではないが、それぞれ目的を持っていて、お互いがお互いのために力を合わせる。しかし厳しい現実として、そこに平等は存在しない。
力のある者、魔法の得意な者、頭のキレる者、様々な能力や個性、それぞれが同等の事が出来るわけではない。
同じ魔法の得意な者同士でも必ず優劣はある。劣っている者は、優れた者と同様の事をしなければならないのか?優れている者は、劣っている者と同じ事をすれば良いのか?
それぞれが、出来る事のベストを目指して頑張ればイイ。そして訪れた、ハンソの身体の特徴・能力を遺憾なく発揮する機会。
だから、ここで力を発揮さえすればハンソはハンソのままでイイ。
「ウィンドトルネードーッ」
触手を切断するだけではなく、T字路からスケルトンを吹き飛ばす為に、魔法はしばらく維持しながら大通路へと移動する。通路の壁に突き当たったウィンドトルネードは左右に別れて、スケルトンを吹き飛ばす。
左側にいたスケルトンは触手から解放されるが、右にいたスケルトンは本体に向かって飛ばされる。T字路の近くにスケルトンの気配はなくなり、これでハンソを召喚してやれば御膳立ては完了する。
「ハンソ、待たせたな!」
ハンソをなるべく触手の近くへと召喚してやる。十本以上は触手を切断したが、それでもまだ同じくらいの触手が残り、奥にはワーム本体の姿が見える。
本体の大きさは、この通路いっぱいの大きさがあると思っていたが、想像したほどではなかった。通路の半分くらいなので12~3mくらいだろう。ただ、身体の長さは終わりが見えていない巨大ミミズといった感じがする。
フタガのワームと違うのは、口周りが牙ではなく触手になっている点で、丸のみして酸で溶かしてい吸収するタイプなのだろう。
「エト、エト、エトッ、エト、エト、エトッ」
ワーム本体の姿が見えたことで、何時もよりも早口なハンソだが、これはきっと興奮しているに違いない。
「良かったな、ハンソ。相手もヤル気満々だぞ!」
「ンートーーーッ!」
ワームに背を向けて、首を激しく横に振るハンソ。あんなの敵にもならない相手だとワームの事を否定し、背を向ける余裕がある···のだろう、きっと。
「ハンソ、悪いが相手をしてやってくれ。相手は戦いたがってる」
ハンソの態度とは違って、間違いなくワームは怒っている。
触手を切られた事、食事を邪魔された事。吹き飛ばされたスケルトンの骨がトゲのように振りかかかってきた事。そして、ハンソの馬鹿にしたような態度。
ワームには表情もないし言葉を話す事もないが、触手の先端が赤く光り明滅している。そのどれもがハンソの方を向いている。
邪魔したのはお前か!と、今にも声が聞こえてきそうな、ピリピリとした雰囲気が漂う。
そして、グワッと音がしてワームの口が大きく開かれる。開かれた口は、この通路いっぱいに広がり、全てを喰らい尽くす体勢をとる。
「ハンソ、後ろを見てみろ。狙わなくても良くなったぞ!」
「ンーーートーーーッッッ!」
明らかな捕食体勢を見て、ハンソが咆哮をあげる。それに呼応するかのように、ワームの触手が動き出す。
「さあ、始めようか。こちらも全開で行こう!」
精霊樹の杖を構え2対4枚の翼を出すと、それにハンソが応える。
「ヴオォォォォーーーッ」
“エトッ”と“ントッ”以外で初めて聞いたハンソの雄叫びは、きっと本気の証なのだろう。後でソースイにも教えてやらないと、拗ねてしまうかもしれない。
「ウィンドトルネード」
精霊樹の杖ならば、もっと上位の魔法でも行使出来るのだろうが、今の俺が制御出来るのは中位魔法まで。
しかし、2対4枚の翼という違う力がウィンドトルネードを後押しする。黒翼からは自然と剣羽根も放たれ、破壊力を増してくれる。
「カショウ、ハンソがいるけど大丈夫かい?」
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