第152話.激情
「アタシが望んだのは、こんなガリガリの貧弱な姿なんかじゃない」
両方の手の平を顔の前に出して、まじまじと眺めながら大きく首を横に振る。
「んっ、誰がガリガリだって?」
『えっ、問題はそこなの?』
カマ精霊の目が大きく見開かれ、両手を大きく広げる。
「見てみなさいよ!このガリガリの身体。今にも死んでしまいそうな、そんな身体で同情をひこうだなんて思わない。そんな哀れみなんていらないのよ!」
「ガリガリじゃないだろ?ゴツすぎる身体してると思うぞ」
『そうよ、それはガリガリじゃなくてゴツゴツした手って言うのよ』
お互いが何を言っているかが理解出来ずに、見つめ合ったまま時間が過ぎる。おそらく認識は一致する事はないのかもしれない。
「シナジー、出来るか?」
そう言うと、すこし間があってから霧が発生してケモミミエルフが現れる。
「なあ、このエルフはどう見える。痩せている?太っている?」
「何するかと思ったら、なんてつまらない事を聞いてくるの。そんなのエルフなんて、痩せてるに決まってるでしょう!」
「じゃあ、次を頼む」
ケモミミエルフが消えて、ガッシリした体型のドワーフに変化する。
「じゃあ、これはどう見える。痩せている?太っている?」
「馬鹿じゃないの!そんなのドワーフなんて筋肉のかたまりよ。痩せているか太ってるかなら、太っているでしょ。あたしに、そんな事を聞いて何がしたいの?」
「これが、最後だよ。シナジー、頼む」
しかし、シナジーは動かない。何とも言えない目をして、嫌がっているのが分かる。
「1回だけだ、1回だけ。もう言わないから!」
そう言うと、ドワーフ型をしていたシナジーがゆっくりとカマ精霊の姿に変化する。
「じゃあ、これは?」
カマ精霊の返事は返ってこない。シナジーを凝視し身体は小刻みに震え、言葉にならない。
「あっ、あっ、あっ」
「なあ、どう見える?」
「あたしの理想の姿を、何であなた達が知っているのよ?」
「これが、俺達が見ている姿だからに決まってるだろ。ミュラー見せてやってくれ!」
しかし、ミュラーの金属盾は出てこない···。
「お前もか···。30秒だ、30秒だけ我慢してくれ」
そうすると姿見鏡のような盾が現れるが、表面は曇ってボヤけた姿しか映らない。
「ミュラー、20秒だけだ」
しかし、ミュラーの盾に変化はない。
「分かった、10秒だけ!」
俺が最大限に妥協する事で、ミュラーの盾の表面の曇りが取れ綺麗な鏡面へと変わり、カマ精霊の姿を映す。
「醜い、なんてガリガリでみすぼらしい姿なの」
鏡で姿を見せたのは衝撃が強すぎたのか、カマ精霊の顔が今までにないくらいに歪んでいる。このまま泣かせれば暴走してしまうかもしれない。
カマ精霊に異変が起こっているのは分かるが、それは何かは分からない。直感でしかないが、このまま暴走されてはマズい気がする。
しかし、どうやって止める?躊躇なく攻撃するか、それとも動きを封じれるのか?
「ポイズンミスト」
俺が判断に迷う間に、ブロッサが動く。カマ精霊が大きく息を吸い込んだタイミングで、毒の霧が立ち込める。
「ゴホッ、ゴオッ、ヴォエッ、ヴォフッ」
「ブロッサ、大丈夫なのか?ちょっと毒が強すぎるんじゃないか?このままだと、消滅するぞ」
「大丈夫、この毒は精霊に影響を与える程に強力。だけどそれ以上に魔物に効果がある」
「フッ、フー、ウッ」
「本当に大丈夫か、もう呼吸が止まりそうだぞ」
それでも、ブロッサは加減するつもりはない。そして厳しい眼差しで、カマ精霊に話しかける。
「理想の哀しみの精霊でありたいなら我慢比べよ。あなたが消滅するのが先か、あなたの中に寄生している魔物が逃げ出すのが先か」
カマ精霊の身体がキラキラと光だし、それに伴い少しずつ身体の色が薄くなる。青白く透き通りそうな身体は、本当に透けてしまっている。
「カショウ、お願い。リッター達で、カマ精霊を照らして」
「お願いされなくても大丈夫だよ。ナレッジ出せるだけのリッターを!」
カマ精霊をの周りをリッターが囲むと、中に黒い影が見える。カマ精霊はぐったりして動かないが、黒い影は中でのたうちまわっている。
カマ精霊の身体が透けた事で、中の影にまでリッターの光が届き、毒と光が影をさらに苦しめる。
「さあ、出てきなさい!」
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