第141.クオカの森
迷いの樹の内側に入ると、ダビデの移動速度が上がる。
慣れた森を進んでいるだけではなく、動きそのものが違う。俺達にとっては少し濃い程度の魔力だが、ダビデにとっては結界が何らかの影響を与えているのだろう。
そして止まることなく、もう2時間は走り続けている。
「ダビデ、どこまで走るんだ?」
「そうですね。そろそろ、少しだけ休憩を取りますね」
「このペースで進んで1週間かかるのか?」
「仮眠は2時間程とれるので安心して下さい」
言葉は丁寧だが、あまり休憩はとらないと宣言してくる。もちろん、それに俺達も付き合う事になるが、ダビデは全く気にしていない。
そして、ダビデは短い休憩時間の間も、世話しなく何かをしている。イロイロな方向を向いて手をかざしたり、しゃがんで土を触ったりしている。
特に魔力が変化したり動いてもいないし魔法を行使しているわけではないし、精霊の気配や匂いも感じない。
「ムーア、何をしてるか分かるか?」
『さあね?あなたのスキルで何も感じられないなら、私に分かるわけがないわ』
「ホーソンなら分かるか?」
「何かしらのマジックアイテムが関係しているかもしれませんが、魔力の流れが無いのであれば解りませんね」
俺の魔力探知スキルも、まだ使い始めたばかりで完璧と呼べるには程遠いが、それでもスキルである以上は仲間達よりも魔力を感じとる事が出来る。
最初から全てが上手く行くわけではないし、これから何かが分かる事もあるだろうが、今は何もわからない。
残るは結界の外と中の空気の質感の違いになるが、何かが混ざっているのであればブロッサなら分かるかはず。しかし、肝心のブロッサは影の中から出てこない。いつもなら、珍しい薬草などを収集する為に外に出てくるはずだが、今は影ではなくブレスレットの中に籠って出てこない。
「ブロッサ、大丈夫か?」
「ウン、大丈夫。アノ毒ハ手強イカラ、少シダケ時間必要。ブレスレットノ中ナラ問題無イ!」
一度は返事をしたが、その後は呼び掛けても返事が返ってこない。契約関係にあるので、ムーアの存在は確かである事は感じれるが、状態までは把握出来ない。
「ムーア、ブロッサは大丈夫なのか?」
『苦しんだりはしていないから大丈夫よ。恐らく進化する前兆だから、後は楽しみに待ってて』
何が関係するのかは分からないが、1つの事が切っ掛けとなって大きく成長したり世界観が変わることはある。後はブロッサが何を願って進化したのかを楽しみに待つしかない。
結局、ダビデは休憩の度に同じ動作を繰り返しているが、何をしているかまでは分からなかった。この森の中にずっと居るわけではないので、知り過ぎるのは危険な行為にも思える。
それに、2日目になると走り続けるのにも飽きてきた。全くといって景色が変わらず、同じパターンの光景が明らかにループしているしている事に気付く。
進んだ距離は、見える迷いの樹の大きさで分かる。しかし、全部で32本の迷いの樹がほぼ等間隔で囲むように配置され、これは自然に出来たものではない。恐らくはドライアドやトレントによって意図してつくられた配置になるのだろう。
変則的に位置を変える太陽もあり、1度方向を間違えれば修正する事は出来ないだろう。そして、ダビデも位置を特定させない為に、この森を走り続けているように思える。
「結界の中も、迷いの森になっているって事か」
「そうよっ、木々を避けるように見せて、少しずつ曲がって進んでるわっ」
自慢気に現れるベルだが、その位置感覚はGPS並みの高精度を誇る。もしかすると、クオンと同じで俺達の中でも、秘匿したいスキルになるかもしれない。
「ベルが位置が分かるのは、精霊としてのスキルなのか?」
「えっ、それはっ、とにかく私が凄いって事なのよっ」
精霊としてのスキルじゃない事が分かると、精霊としての力が低いと感じたのか誤魔化そうとし始めるベル。
「やっぱり鳥型である事のスキルなのか。音の精霊としてのスキルと相性抜群だと思うぞ」
「そうよっ、私は凄いのよっ!」
クオカの森の謎解きが終わる頃になって、クオカの町が見えてくる。
森の木々を利用し屋根を作ったり、家自体が木の上にあったりと住居らしきものが見えてくる。町を囲む外壁はなく、迷いの樹の結界が破られる事はない絶対の自信も伺える。
「着きました、ここがクオカの町」
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