第140話.迷いの樹
「ココハ危険ナ場所、毒ガ満チテイル」
ダビデの言葉にブロッサが反応する。
「ブロッサ、そんなに危険なのか?」
「神経毒、カナリ強イ。精霊ノ魔力ノ流レモ狂ワセル程。地面二落チテイル実ノセイ」
毒の精霊であるブロッサが認める強毒で、この実が全ての生物の侵入を防いでいるのだろう。割れてはいないが、そこからジワジワと毒が漏れだし、周囲の木々も、漏れだした毒を吸収している。
「コレ、気付カナイデ踏ンダラ私デモ危ナイ」
「えっ、ブロッサでも危ない毒ってあるのか?」
「一回体験スレバ大丈夫。コレハ未ダ未知♪」
「ブロッサ、声と言葉の内容が合ってないけど、絶対に無理はダメだからな」
「だから私から離れないで下さいね・・・。まあ、精霊樹の杖を持っているカショウ殿も大丈夫ではあるのですが、離れて行動する事はお薦めしません」
“巨木、弾ける音”
さらに巨木から聞こえる微かな音をクオンが探知する。弾けるような音は、実のようなものを撒き散らしているのだろうか。点在している巨木だが、かなりの高度から撒き散らされれば実は広範囲に広がるはず。
「ダビデ、あの巨木は実を飛ばしているのか?」
「流石ですね。もう気付かれましたか。あれは“迷いの樹”と呼ばれています。あの木が飛ばす実だけでなく、花の匂いにも毒性があるので不用意に近付くのは危険ですよ」
迷いの樹が近付いてくると同時に、感じられる毒素も強くなる。
ダビデと俺の周りには、結界のようなものが張られて毒素の侵入を防いでくれている。そして俺の結界の中心にあるのは精霊樹の杖で間違いない。
「精霊樹の杖が結界を作ってくれるなら、ダビデも何か結界をつくる道具を持ってるのか?」
「・・・あっ、はい、御守りを持ってます。決して見せてはならないと言われていますので、お見せする事は出来ませんが」
「それは、俺達に話して大丈夫なのか?」
「言い付けは守ってるので大丈夫です」
ディードも出てこないところを見ると問題はないのだろうが、もしこれが喋ってはならない事であった場合は・・・。ダビデに不用意に聞くのは危ない事かもしれない。
さらに迷いの樹が近付いてくると、樹の呼吸が感じられる。酸素を吸い二酸化炭素を吐き出すように呼吸しているが、迷いの樹の場合は魔力を吸い込み、毒素を吐き出している。
確かにダビデは嘘は言っていないかもしれないが、全ての情報が網羅されていたり教えてくれるわけではない。実や花だけに気を付けるだけではなく、この樹自体に触れてすらいけない。
かといってダビデは腹芸が出来る性格ではないし、知らない可能性も否定は出来ないが、ディードなら十分理解しているだろう。
「ダビデ、この樹に黒い靄がかかっているのは何なんだ?」
「えっ、それは・・・。よく気付きましたね。この樹は魔力溜まりの靄を吸い上げて、上空から拡散させているんです。迷いの結界内に魔力溜まりをつくらない役割も果たしているんですよ」
「魔樹のように吸収はしてくれないのか?」
「詳しい事は私も分かりませんが、1ヶ所に集中して溜まらなければ大丈夫みたいですね」
「迷いの樹自体は大丈夫なのか?変質したりするだろ」
「迷いの樹はドライアドやトレントが見ているので大丈夫なはずです。あまり近付くと怒らせるので、傍は通りませんよ」
「合一の大樹もトレントの木だったけど、この森には他にも巨体な木があるのか?」
「そんな大きな木なんて、あるわけないじゃなですか!」
「ダビデ、無駄話は控えて先を急ぎましょう!」
急にディードが姿を現す。相変わらず口元にだけ笑みを浮かべた表情で何を考えているかを悟らせないが、何気に聞いたこの質問はマズかったのかもしれない。
普通に考えれば植物だけでは、ここまで大きく成長する事は考えられない。違う世界であってもライの話では、常識的な事は一緒だったはず。それから大きく食い違うとなれば魔法や精霊が関係していて、トレントやドライアドが関係しているのは間違いない。
そして巨木の内側に入ると、若干ではあるが空気の質感が変わる。空気が重いというか、魔力が濃い感じがする。
「ここから1週間も行けばクオカの町に着きます。途中にはエルフ族の集落もありますが、クオカの町を目指して最短で進みます。休憩も最小限で進みますので、はぐれないように付いてきて下さい」
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