第136話.エルフ族のダビデ
「あれは、もしかして黒い靄っすかね?」
雲よりも高い巨木の姿がハッキリと見えてくると、俺達の中でも視力の良いチェンが靄に気付く。
雲より頂上は見えないが、途中には所々に黒い靄がかかっている箇所がある。葉の輪郭がぼやけて見える言われれば間違いないのだろうが、今のところチェンにしか見えていない。
巨木の側まで辿り着いたとしても、かなり上へと登らなければ魔力を感じ取れないかもしれない。
そろそろ迷いの森の結界部に入る事になるが、問題は惑わされずに先に進めるかという事になる。
“何か、来る、エルフ”
クオンが、2足歩行で森を軽快に移動してる気配を探知する。やっとエルフの迎えが来た事に胸を撫で下ろし、巨木を見ていた視線を下ろす。
“違う、後ろ”
「えっ、後ろ?」
思わず聞き返してしまうが、クオンの探知に間違いはない。
「カショウ殿っ、カショウ殿っ」
と、かなり遠くから必死に大声で俺達を呼んでいるらしい。クオンが居るから聞こえるけど、普通なら全く聞こえる訳がない。
しばらくその場で待っていると、こちらを追いかけてくるエルフの姿が見えてくる。弾むように走り、一歩一歩の進む距離が長い。風の精霊が、エルフの移動を助けているのかもしれない。
その軽快な動きとは違って、着ている服はボロボロで全身血まみれのエルフの姿。ポーションや回復魔法で傷は癒えても服までは直すことは出来ず、エルフの身に何かが起こった事だけは分かる。
「やっと、見つけた。待ってくれー!」
近くで見ると破れてボロボロな服装だが、それなりに高価なものだと分かる。金髪に端正な顔立ちだが、ボロボロに破れた服装の取り合わせが、落ちぶれた貴族のようにしか見えない。
「カショウ殿で間違いないでしょうか?私は迷いの森のエルフ族のダビデ。カショウ殿をお迎えに上がりました」
「それは、本当か?後ろから追いかけてきて、迎えにきたなんて信用できるのか?」
「そっ、それは・・・」
言葉に詰まるダビデに、さらにムーアが追い討ちをかける。
『そうね。エルフにしては変わった名前よね。3文字の名前なんて短過ぎるし、濁音が多すぎるわ』
「あまり意識しないで名付けしてたけど、アシスの決まりってあるのか?」
『特に駄目な決まりなんてないわ。ただエルフ族で濁音だけの名前なんて珍しくない。濁音は2文字までで、大抵は半濁音・拗音・長音のどれかが入ってるはずよ』
「つまり、ダ・ビ・デはあり得ないのか」
『そうね、ダピテ、ダーヒデ、ダプュテなら、そこまで疑うことはないわ』
「やっぱり、偽物か?」
俺の声で、精霊達にも仲間達にも緊張感が走る。俺の嗅覚でも魔物の臭いも感じ取れない、感じられる魔力にも禍々しさはない。
霧が立ち込めて、シナジーがエルフに触れる。触れたものに変化出来るシナジーだが、目の前のエルフは間違いなくエルフであるようだ。
「まっ、待って下さい。話しますから、攻撃をしないで下さい」
両手を前に突き出して必死に制止してくるダビデ。
「最初から正直に話してくれれば問題ないが、話を聞くまでは警戒を解くつもりもない」
何故ダビデが、後ろから追いかけてきたかは単純な理由だった。
ユニコーンの縄張りに魔物の翼を持ったヒト族が現れた事をコダマから聞いて、直ぐに追いかけたが俺達の移動が速すぎた。
ダビデも俺達がどのような存在であるかを確かめる為に、そっと気付かれないように接近しようとしたのが裏目に出てしまう。
ガーラと契約を結んだ俺達の移動速度は格段に上がり、俺が全力で飛ぶ速度にダビデは付いてこれない。風の精霊を召喚してアシストしてもらうが、どんどんと引き離され最後には見失ってしまう。
コダマ立ちも魔物の翼に驚いて逃げ出しまったので、俺達がどこに行ったかも分からず、やっとの思いで情報を掴んだと思えば、それは魔樹の森の中へと入ったという絶望的な状況でしかない。
慌てて魔樹の森へ踏み込んでみたが、そこは光もなく迷路のような森。枯れた魔樹に身体を切り刻まれ、服も身体もボロボロになったところをキマイラに助けられた。
「あの時のキマイラの言っていた侵入者はの精霊は、ダビデの召喚精霊だったのか」
「キマイラに助けられたのは、私の事で間違いないかと思います・・・」
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になる』『面白い』と思って頂けたなら、“ブックマーク登録”や“評価”、“いいね”をお願いいたします。
物語はまだまだ続きますので、引き続きよろしくお願いいたします。