第132話.大樹の上の戦い②
レーシーは、腕から出した枝を操り俺達の攻撃を防いでいるが、その対応範囲の広さは盾というよりは障壁に近い。
さらに、その枝には刺があり攻守一体となっている。
また、レーシーの操る木々は1つではなく、くるみのような硬い殻を持った実を飛ばしてきたり、足元の茶色く変色した木々を操ったりもして襲いかかってくる。
俺のマジックシールドやミュラーの金属盾・ソースイの漆黒の盾で防ぎながらも、攻撃の手は止める事は出来ない。
地の利は完全にレーシーにあり、一旦攻撃の手を緩めると一気に流れが変わってしまう気がする。
打開策として、俺のストーンバレットの石の数を増やしてみたり、大きさを変えてみたりと少しずつ込める魔力を増やし試行錯誤してみるが、その何れもがレーシーには届かずに逸らされている。
やはり使いなれていない付け焼き刃の魔法では思うようにはならない。多少の犠牲を覚悟でも風魔法を使うしかないのかと考え始める。
レーシーは今までの魔物にない知性が感じられる。力や魔力だけを誇示する魔物ではなく、自身の特性や魔法についても熟知して、それぞれに合わせた対応を的確に取ってくる。
それに、俺達が合一の大樹を傷付けたくない事も分かっての動きを見せ、感情をも見透かされている気がする。
「エトッ、エトッ、エトッ」
そんな中に、ハンソの困ったような声が聞こえてくる。
横目で見ると、ガーラがハンソを鼻で押して前面へと押し出そうとしている。一生懸命に抵抗しているが、ガーラも馬力があり力強く、遂にはハンソを徐々に盾の外へと押し出す。
盾の中に戻ろうと攻撃に対しての完全に背中を向けているハンソは、木の実のつぶてが掠め出した事に気付いていない。ただ、ガーラに押されて、困惑した声を上げている。
「ハンソ、危ないぞ。正面を見てみろ!」
俺の声で気付いたハンソは、腕で顔をガードして正面に向き直る。その瞬間にガーラはハンソを完全に盾の外へと追いやってしまう。
ハンソが無防備で攻撃に晒されたことで、レーシーの攻撃もハンソに集中する。
“ガガガガガガガガッ”とマシンガンの集中砲火を浴びたように被弾するハンソ。
しかしハンソに攻撃が集中する事で、他の攻撃は弱まる。
「今だ!」
ハンソの献身的な行動を無駄にしない為にも、一斉に攻勢に出る。そして俺は、制御出来る限界の魔力を込めて、ストーンバレットを放つ。もはやバレットではなくキャノンボールに近い。
ウィスプ達の一斉攻撃の後の、障壁が一番薄くなった時が狙い目。ウィスプ達も俺の意図を察知して、サンダーストームで全体に障壁を削ってくれる。
「ストーンキャノン」
頭くらいの大きさになった岩を、レーシーに向かって放つ。
今までよりも石が大きくなっただけではない。今までよりも魔力が込められただけでもない。それだけだと、レーシーに通用する事はないだろう。
レーシーの障壁の強さの秘密は、全てが同じ素材ではなく、幾つかの木々が混ざり構成されている事にある。硬い木と柔らかい木が混ざり、巧みにその密度や比率を変えている。
最初からストーンバレットは障壁を貫通しても、柔らかい木の方に抜けるように仕組まれている。
本来なら躱す必要はないが、敢えて躱す動作を付ける事で当たると思わせている。演技している時点でレーシーには余裕があるのだから、多少の威力を上げても対処されてしまうだろう。
しかし、今回のストーンキャノンは少し違う。石の大きさを変えたのは、見た目の威力を上げたのではなく風を纏わせる為に、ある程度の大きさが必要だったから。
障壁にストーンキャノンがぶつかり、予定通りに弱い木の方へと軌道が逸れるが、ここからが変化する。石が纏った風魔法が時間差で発動し石の周りに気流を作り、変化球のように軌道を変える。
急な変化にレーシーの回避が間に合わずに腰の辺りに直撃し、その衝撃と石に纏った風がレーシーを大きく弾きとばす。
さらに大樹の上に落ちると、まだ威力を失っていない風魔法は変色した葉を巻き上げる。
そして大樹の中が露になり、そこにはポッカリと空いた大きな空洞が広がっている。中にあったはずの大樹の存在は全てレーシーに吸収されて消滅してしまい、後は存在を隠す為のダミーの枝葉しか残されていなかった。
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