第131話.大樹の上の戦い①
「慌てて迎えにきて、どうしたんだい?」
「太陽が出ていても、僅に黒い靄は出ているんだ。光の精霊がいれば多少効果はあるかもしれないが、状況は変わらない」
「そうか、ダメだったか。それなら仕方がないな」
「俺達に、何か隠してる事があるんじゃないか?」
「別に隠すことなんて無いよ」
「じゃあ、言い方を変えるよ。俺達以上に見られたくない事があるんだろ?」
「それは、誰だって同じでしょ。君たちもね!それに聞いてしまったら、君達も関係しちゃうよ。それでもイイのかい?」
「他の40体のトレントは見せる事は出来ないんだろ。この大樹と同じ事が起こっているんだからな!」
仮定の話ではあるが、断言して言い放つ。それでもヘカトンケイルは表情を変えないが、黙って顔を見つめる。普段話しかけてくる顔は馴れ馴れしいくらにフレンドリーだけれど、感じられる印象はそれしかなく喜怒哀楽の感情を意図して隠しているように見える。
しかしヘカトンケイルには、全身の至るところに瘤のような顔があり、その全てが表情を変えないわけではなく、僅かな動きを見逃しはしない。
俺の視線がその顔に移る事で、明らかに表情が歪んでゆく。
「あまり虐めないでもらえるかな。今のは怒りの精霊の仕業でしょ。君達は、いったい何者なんだい?」
「それを聞いたら、あんたも関係する事になるけど覚悟は出来てるか?俺だけの話じゃなくて、契約している精霊や仲間達に対しての責任があるんでな」
「面白いね、君。もしボクが危険な存在だったとしら、君はどうするつもりだい?」
「危険だと判断すれば、自分自身を守る選択をするしかないだろ」
ダークの操るマジックソードの切っ先が下を向き、大樹を攻撃する姿勢を取る。
その時、大樹の変色している部分が大きく波打ち始める。少しずつ大きくなるうねりに、蔦や蔓が剥がれ始める。剥がれた事により、さらにうねりが増幅され大きくなる。
「間に合わなかったか」
『そうね、残念だけど』
微かではなくハッキリと感じられる魔物の気配に、これ以上何もせずに見ている事は出来ない。
魔物の気配が濃くなる部分に、ダークのマジックソードが突き刺さる。
「ギャァァァーッ」
ヘカトンケイルの腕から蔓が伸びて、マジックソードに絡み付こうとしたが、その奇声で動きが止まる。
ダークがマジックソードを引き抜くと、裂け目が広がり黒い靄が溢れ出してくる。その靄の中からは黒い手が現れ、だんだんと姿が見えてくる。ヘカトンケイルと同じで樹皮で覆われている手。さらに腕や肩、頭と裂け目から這い出してくるように姿を現し、顔には赤く輝く魔物の瞳がある。
「あれは魔物のレーシー。もう手遅れ」
呆然としているヘカトンケイルに、ガーラが非情の宣告をする。
『どうするの、戦うの?』
ムーアの問い掛けは、俺だけでなくヘカトンケイルにも向けられている。
「悪いが、時間切れだ。止まっている余裕もないし、勝手にやらせてもらう!」
俺の言葉を聞いても、黙ったままで動くことのないヘカトンケイル。ダークのマジックソードが大樹を突き刺した時は一瞬で蔓を伸ばしてきたが、今は微動だにしない。
ヘカトンケイルの事が分かれば、対処する方法が分かるのだろうが、今は推測で判断するしかない。
トレントが融合した存在がヘカトンケイルなら、この大樹自体に残されているトレントの力は大きくはないし、魔物化したことで大きく力が伸びたとしても、そこまでではないはず。
精霊樹の杖を構えると、それが攻撃の合図へとなる。
「蔦や蔓は仕方がないが、まだ正常な部分は傷付けるなよ」
『その杖を持ったあなたが一番危ないけどね』
「分かってるって、風魔法は使わない」
魔樹の森では、ウィンドカッターだけでも魔力を込めすぎると地面に大きく亀裂を作ってしまった。当然の事で火魔法は使えないし、水魔法はあまり使った事がない。消去法で残ったのは土魔法。
「ストーンバレット」
5・6個の石がレーシーに向かって放たれる。それに合わせるように、ウィスプ達やムーアやホーソン、チェンも攻撃魔法を放つ。
それに対して、レーシーは両手を前に付き出すと、そこから無数の枝が伸びて盾となる。
ムーアやホーソン、チェンの攻撃は弾き返され、通用したのはウィスプ達と俺だけ。
しかし、ウィスプ達の攻撃は枝の盾に穴を開けたものの、直ぐに回復されてしまう。
そして俺の攻撃は、貫通はするが威力が落ち余裕を持って躱されてしまう。
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