第129話.大樹の異変
「それは、光の精霊じゃないか!もしかして君達は、光の精霊を連れてきてくれたのかい?」
「たまたま魔樹の森のキマイラが、俺が光の精霊を召還するところを見ただけですよ」
「ってことは、協力してくれんだね。ありがとう。助かったよ。感謝するね。これで合一の大樹も助かるかもしれない」
キマイラに頼まれた事だから無下にはできないし、もし帰り道にまた魔樹の森を抜ける事を考えると協力するしかない。
それを分かってなのか、ヘカトンケイルも協力してくれる事を前提として話が進んでいる。
「協力といっても、何をするんですか?俺達に協力出来る事なら手伝いますけど」
「何、簡単な事だよ。大樹の上まで登って、黒い靄に精霊の光を当てて欲しいんだ。君には翼があるだろ、簡単だよ!」
翼を出した事は不用意だったかもしれない。通常で20の頭があるなら、落下する最中でも俺の行動をしっかりと見て把握していた精霊がいるだろうし、融合するだけの力のある精霊を見くびってはいけない。
「君たちだけで先に行ってイイよ。僕まで連れていくのは大変だろうし、僕はゆっくりと登っていくから心配しないで」
「でも、初めて会った俺達を信用して大丈夫なんですか?見られたくない所もあると思いますけど?」
「そうだね。僕と一緒だと、君たちは大丈夫なのかい?君たちの方が見られたくない事は多いんじゃない?」
少し抜けているように見えて、痛いところを突いてくる。ムーア達が影の中に入って出てこないのも、何か不気味さを感じているのかもしれない。
「それに、その不自然な喋り方は止めなよ。少し気持ち悪いし、長続きしないよ」
「空から精霊が落ちてきて、何もなかったように話しかけられてら普通は混乱するよ」
馴れ馴れしいのが苦手で少し避けてるとは言えずに適当に誤魔化して、2対4枚の翼を見せる。
「これは見てるんだろ。魔物の翼を持つヒト族でも何も思わないのか?」
「ああ、見たよ。横にペガサスもいたから問題ないだろ。僕の見る目よりもペガサスの方が断然信用出来るからね」
「そんな感じで大丈夫なのか?もしかしたら間違ってたり、騙されてる可能性だってあるぞ」
「だって正しい可能性の方が圧倒的に高いんだから、低い可能性の事を考えるのは無駄だよ」
自信満々で答えるヘカトンケイルだけれど、その無駄をしなかったから大樹の上から落ちてきたのだろう。成功する可能性次第で、無理と無駄のどちらに当てはまるかは変わる。
「分かったよ。その前に上で何が起こってるんだ?危険な事が起こっているなら知っておきたい」
「魔樹の森で、黒い靄を見ただろ。あれが上で出始めたんだ。払っても払っても直ぐに現れるんだ」
「それに光の精霊がどう関係するんだ」
「太陽が出ている間は靄はなくなるんだけど、夜になると現れる。きっと光に弱いんだと思う」
「という事は、上に行っても夜まで待つ必要があるのか」
「その間に、僕は上まで登っていくよ」
確かに魔樹の森の中では日の光は当たらない。しかし森を抜ける時はリッター達を召還していたけど、靄は光を遮りこそしたが、光によって晴れるといった現象は見られなかった。
魔樹の森の魔力は、他と比べても強く濃いらしいので、大樹の上の靄程度ならリッター達の光でも大丈夫なのかもしれない。
目的の重要性に対してどこまで考えるかが、俺なりの無理と無駄になる。考えても分からないところまできてしまえば、大樹の上で何が起こっているかを自分の目で見るしかない。
俺達だけで上に登っても大丈夫だと言ってくれているが、問題はソースイとホーソン。ヘカトンケイルは過大評価して見せたなくない事もあるだろうと言ってくれたが、1番見せたくないのは間違いなくソースイを抱えて飛んでいる姿になる。
置いていくかと悩んでいたら、ガーラが現れて背中に2人を乗せる。もうヘカトンケイルに見られているので、今さら隠す事はないと判断したのかもしれないが、早く上に登りたいから出てきただけなのかもしれない。
そして大樹の周りを螺旋階段を登るように、駆け上がる。上にいくに従い大樹の姿も変化し、低層は広葉樹が多く枝は横に大きく張り出しているが、上層に行くに連れて針葉樹が混ざり始め、細い姿に変わってくる。
そして最上部に近付くと、葉の色が茶色く変色し枯れている部分が見られる。
確かに、禍々しい嫌な魔力を感じる。