閑話11.火オニ族の覚醒
ヒケンの森の火オニ族の族長ソーセキ。
オニ族で最も報われない火オニ族。ヒケンの森では、火属性魔法は禁止されている。その為、荷物持ちから雑用、誰もが嫌う肉体労働をこなす事しか活躍する場はない。
アシスは魔法の世界。なぜ神はオニ族のような魔法適正の低い者を創造したのだろうか?なぜ、先代の火オニはヒケンの森で生きる事を選んだのだろうか?
ある日、オニ族の村にカショウという迷い人が現れた。迷い人といえば、優れたスキルを持っている者が多く、国を興したり勇者と呼ばれる者もいる。
しかし、この迷い人は無属性の魔法しか使えない。主要属性や特殊なスキルは無く、迷い人でもハズレの存在に近い。
それでもソーギョク様を救い、オニ族の村まで帰還させた恩人になる。
その話を聞いた時、衝撃が走った。
聞けば、魔力で剣と盾を作るだけの能力らしい。特殊な能力を持ったマジックアイテムではない。
何故だ?それなら我ら火オニと変わらないではないか?
いや、我らの方が優れている。下級ではあるが主要属性の火魔法が使え、屈強な肉体もある。剣や盾を扱う事も出来る。
どうして迷い人は、ソーギョク様を救う事が出来たのだ?何が違うんだ?いくら考えても違いは分からない。
そして1つの結論に至る。
魔法は不要なのだ!我らに与えられたのは、火属性の魔法ではない。神が与えたのは、魔法を凌駕する屈強な肉体。
それに気付いたとき、体に流れる魔力が生命力に変換されていく。さらに体が強化され、力が漲る。
この体は、ゴブリンの矢なぞ弾き返す。ゴブリンの魔法なぞ拳の一振で掻き消せる。
そして頭の中に、呪文の言葉が浮かび上がる。
「ジコトースイ」
何と素晴らしい響きなのだろう。何と我らの存在に合う言葉なのだろう。
これこそ、神がオニ族に与えた魔法を凌駕する力。ゴブリンのような下位の魔物など相手にもならない。
そして、火オニ族のみが肉体を鍛練してきた。これまでの肉体労働は、神が与えた試練。そして遂に試練を乗り越えたのだ!
鍛練して来なかった他のオニ達には不可能。我らだけが至った境地。これを逃してはならない。今こそ、序列が大きく変わる時。
早く、ソーギョク様に進言しなければ。我らオニ族は、打って出るべきであると!
おかしい。なぜ、ゴブリンの矢が刺さる。なぜ、血が流れるんだ?魔法の効果が切れたのか?もう一度だ!
「ジコトースイ!」