第104話.ハーピーロード戦④
止めを刺す為に、ハーピーロードに近付こうと足を踏み出すと、足元の影から急に何かが飛び出してくる。
足を降ろそうとした先に、潜り込むようにして現れたのはカーバンクルのコミット。咄嗟に避けようとした俺は、バランスを崩して片膝をつく。
その直後、俺の顔のあった位置に剣羽根が飛んでくる。最後の力を振り絞ったのか、ハーピーロードはそれ以上は動く事はない。
これが幸運の精霊カーバンクルの力なのかと感じる。そして再度 マジックソードを握り直し、今度こそ止めを指そうと近寄る。
ダークのキャビティでぽっかりと開いた胸の穴から見えるのは、赤と黒の2つの魔石。ハーピーロードの体の中に2つの魔石がある事も驚きだが、赤の魔石が俺に語りかけてくる。
「なんだ、役に立たないヒト族か?」
言葉が分かるという事は、この魔石はアシスの精霊になるのだろう。やっぱり相手にしなければならないのか?
「おい、ヒト族!聞いているのか?沢山の精霊に助けられてるだけで、1人じゃ何も出来ないんだろ!」
無防備に魔石そのものをさらけ出して、良く言えるなと思うが・・・。気付かなかった事にしておけば大丈夫だろう。マジックソードを魔石に向ける。
「何をする、ヒト族。俺様は精霊だぞ」
切っ先が魔石に当たった感触がする。
「役に立つ優秀な精霊なら、何とかしてみたらどうだ。そうじゃなきゃ、お前も俺と一緒だろ」
「待て、待て、待て」
「一緒だろ」
マジックソードを持つ手に力を込める。
「そう、俺の名は怒りの精霊イッショ。暇潰しにお前らに付き合ってやるよ」
「はい?」
「それは、了承したという事で良いよな。なあ、酒の精霊よ!」
『まあ、あなたがイッショという名を受け入れたなら問題はないわよ』
「えっ、ちょっと待ってくれ!そんなのでイイのか?俺の意思は関係ないのか?怒りの精霊なんて、問題を起こすだけで面倒なだけだろ!」
『精霊の中でも、精神の精霊は特殊な存在よ。まあ精神に影響を及ぼす攻撃は効かなくなるからイイんじゃない』
精霊を増やすことが目的ではあるが、怒りの精霊というのは抵抗がある。知っているわけではないが、俺の中でのイメージが悪すぎる。
そこに影からカーバンクルのコミットを抱えたクオンが現れる。
「あなた、ぼっちでしょ。仲間になりたかったら言うことを聞くのよ!それに1番精霊は私よ。逆らったら許さないわ」
その言葉で、赤い魔石がブレスレットに吸収される。回復には時間がかかるだろうから、しばらくは静かだと思うが。
「ナレッジ、人材補充したから後は任せるよ」
そして、ナレッジの返事を待たずに、放置したハーピーロードに向き直る。赤い魔石が無くなった事で、表情が穏やかになる。少し前までの殺そうとしていた表情と同一人物であるとは考えられない。
瀕死の状態ではあるが、微かに残された魔力の質も変わっている。恐らくは怒りの精霊の魔石が、ハーピーロードに魔力を供給する役割を果たしていた。そして、怒りの精霊の魔力が精神的な徐々に影響を及ぼしていたのかもしれない。
「楽にしてやるよ」
黒の魔石にマジックソードの切っ先が当たった瞬間に、何かがフラッシュバックしてくる。
今、俺は岩峰の上に立っている。眼下には、自然が豊かな森が広がり、幾つもの鳥達が群れをなして飛んでいる。そして上を見上げると、一体のハーピーが飛んでいる。身体が微かに輝き、飛んだ跡にはキラキラとしたものが残される。 もかしてこれが、ハーピークイーンの本当の姿なのだろうか?顔だけを見ると、俺と同じくらいにしか見えない。
笑顔で空を駆け回るハーピークイーンの後ろには、何体かのハーピーが必死の形相で付いて回る。そして俺に近付くと笑顔はさら大きくなり、必死の形相のハーピー達は大きな声を上げる。
辺りが急に暗くなり、自然豊かな森が枯れ始め火の手が上がる。火を消そうと向かうハーピー達は、火の手にまで到達する事なく地上へと落とされる。
何者かの仕業で、自分達では敵わない相手であることを知ったハーピー達は、クイーンを囲み平伏する。クイーンは困惑するが、クイーンである以上逃げるとこは許されない。
しかし、方法がそれしかないと覚悟を決めたクイーンは、一体のハーピーに喰らいつく。そして、もう一体。また次の一体と、順々にハーピー達に食らいつく。悲しみの表情から怒りへの表情と変わり、次々と食らい尽くすクイーン。
そこでフラッシュバックが終わる。ハーピーの言葉は分からないが、ハーピーロードの持つ記憶の一部。
「終わりにして欲しいのか?」
ハーピーロードが頷くように頭を動かし、目を閉じる。言葉は分からないだろうが、お互いの意思は伝わる。
そしてマジックソードを持つ手に力を込めると、魔石は砕けて消滅が始まる。