第102話.ハーピーロード戦②
目の前にいるのは、間違いなくヒト族。
そして珍しい無属性の魔法を使い手で、半透明な剣と盾を具現化し、操れる範囲は広い。
しかしそれ自体は、危険を感じさせるような魔法ではなく、それ以外の魔法は行使しない。
ただ秘めている魔力量は見て取る事が出来ない。それが多いのか少ないのかも分からないのが不気味ではある。
この近くではヒト族は滅多に見かけないから、タカオの街に現れた精霊使いで間違いないだろう。
下位種の雷の精霊、岩の精霊、毒の精霊と不明だがもう1つの4種類の精霊を召喚していると聞いていた。
しかし、4種類の精霊だけではない。岩峰から飛び降りた時に、背中に現れた翼も何かの精霊の仕業に違いない。そして、その精霊を同時に召喚し使役している。
複数の精霊を召喚し使役する者はいるが、5種類の精霊を同時にとなると数は少ない。しかも雷の精霊が3体、それぞれが別々に行動している。スカした顔が気にくわないエルフ族でも、ここまで精霊を使役出来る者はいないかもしれない。
このヒト族は、我らに害を為すだろう
込み上げてくる感情。抑えることの出来ない衝動。
クラエクラエクラエクラエ
コロセコロセコロセコロセ
シネシネシネシネシネシネ
岩峰を旋回しながら、少しずつ近付いていたハーピーロードが急に降下を始める。
ハーピーメイジに投石させた場所を変えさせた事から、俺達の何かを感じ取っているのは分かっているし、そして狙いは召喚者である俺である事も予想がつく。
ウィスプ達がハーピーロードの動きに合わせて連携魔法のサンダーストームを放つ。放たれた雷の玉はハーピーロードの近くで弾けて、バチバチッと音をたて広範囲に時間をかけて放出される。
ウィスプ達の魔力に気付いていたハーピーロードは、余裕でサンダーストームを避ける。
タカオの 街で1度使っているだけに、その事は知られているみたいで、安全な距離を保って避けるが、進路変更は余儀なくされる。
そして、その先に待つのはブロッサの撒いた毒のエリア。
ここでも、何かを感じ取ったハーピーロードは、翼を大きく羽ばたかせて風を巻き起こす。その風には魔力が感じられ、羽ばたきと同時に魔法を放ったのは間違いない。
しかし毒を払う為に減速した事で、こちらは狙いやすくなる。
「ウィンドトルネード」
再度、ハーピーロードも翼を羽ばたかせ、同じ風魔法同士の正面衝突。魔法の熟練であればハーピーロードが有利で、魔力量なら俺が有利になるだろう。
だが拮抗していたのは最初だけで直ぐに押し込まれ始める。岩峰の周りは複雑に風の流れをしているが、時折強い下降気流が発生する。その下降気流が俺のウィンドトルネードの威力を弱める。
どちらに転ぶかではなく地の利がハーピーロードにあったという事を理解する。
そして、止めとばかりに剣羽根を飛ばしてくる。その羽根は複雑な気流の影響を受けて、軌道を読むことが出来ない。
ほとんどの剣羽根は、展開したマジックシールドを避けて、俺に向かってくる。
「バーレッジ」
慌てて弾幕を張り、少しでも剣羽根を打ち落とそうと試みるが、ウィンドトルネードとの同時発動は難しい。落とした剣羽根も少なく、ウィンドトルネードの威力も落ちてしまう。
もう一枚のマジックシールドと、ミュラーの盾、ソースイの漆黒の盾、ムーアのアースウォールが剣羽根に備え、純白の翼が俺を包み込む。
「ゼロ・グラビティ」
動きの読めない剣羽根に対して、少しでも威力を削ぐ為に、ソースイの全力で放つ、全方向のゼロ・グラビティ。
そして、幾つもの剣羽根が、防御をすり抜けて俺に突き刺さる。
しかし、俺の戦いは1人ではない。ハーピーロードの後ろに回り込む事に成功したダークとチェンに連れられたホーソン。
マジックソードとストーンアローがハーピーロードに襲いかかる。この攻撃は翼を掠めた程度で躱されてしまうが、剣羽根の攻撃も緩む。
そこにウィスプ達もサンダーボルトで攻撃を始めるが、微かに羽根が散った程度でハーピーロードは気にした素振りもない。
そして一旦距離を取り、再び岩峰を旋回して攻撃するタイミングを狙っている。
傷口の回復は始まっているが、流れた血は残ったまま。アシスに来て、ここまでボロボロにやられた事はない。
『“大丈夫”』
心配するクオンとムーアに笑って返す。
「ああ、ローブはボロボロだけど大丈夫だよ」
『どうするの?』
「今の俺達の攻撃で通用するのは、これしかないだろうな」