第100話.ハーピーメイジ戦
全力で走り、岩峰の上から飛び降りるカショウ。崖の上でカショウを囲もうと減速したハーピーを置き去りにし、ハーピー達も予想外の行動にその場で動きを止めてしまう。
その僅かな時間がハーピー達の命取りとなる。ワームが地面を喰い破り、そしてハーピー達に襲いかかる。ワームの口の栓をしていた地面が無くなった事で、最大までに高められた吸引力が一気に解放され、結界の上だけでなく離れた場所にいたハーピーを吸い込み始める。
“消えた、ハーピー”
クオンが次々と消えるハーピーの気配を知らせてくれる。前衛のハーピー達は、壊滅に近い状態。
岩峰の中程で純白の翼が現れ、垂直方向の落下する力を水平方向の力へと変換する。そして岩峰の周りを旋回しながら、徐々に減速して霧の中へと侵入する。
シナジーや霧の精霊達が、少しずつ立ち込める霧を増し、それに迎え入れられるように地上に降りる。
「見たことのないハーピーがいるよ」
ナレッジが、全身茶色のハーピーの存在に気付く。その後ろに控えるのは、全身が真っ黒のハーピーロード。
前衛から引き離され後衛として配置されていたハーピー達は、ワームのいる頂上部を無視して、俺達を目掛けて高度を下げてくる。
「普通に考えたら、ハーピーメイジだろうな」
『確かにまだ見ていないハーピーね。もうロードもクイーンも見てるから、今さら感があるわ』
「タカオの街でハーピー達がやった、投石攻撃の岩はメイジの仕業じゃないか。あんなに似た大きさの岩を用意するのも大変だし、魔法なら納得出来るだろ」
『それって次は・・・』
岩峰に左手を翳すだけで、フォリーには伝わる。
「シェイド、シェイド」
シェイドを重ね掛けして岩峰の壁に横穴を開け、そこに飛び込むように身体を入れる。
ゴォンッ、ゴォンッ、ゴォンッ
その直後に、硬い塊が落ちてくる音がする。ミュラーが入口を金属の盾で塞ぐ、色味からして青銅っぽいが、体力が回復すればもっと多くの金属を扱えるのだろう。
「ムーア、アースウォール」
『えっ、ええっ、アースウォール』
ムーアにアースウォールの催促をして、ミュラーの盾の補強を行う。
ハーピーメイジの攻撃は、魔法で岩を作り出し落下させる部隊と、それを守るようにストーンバレットで攻撃する部隊の2種類。
ホバリング出来ないハーピーは、岩を落とす部隊は岩峰の壁に捕まり、岩を落としては壁に捕まりる繰り返している。それを守る部隊は岩峰を周回するように飛んでいる。
それでも下位種のハーピーメイジで、下位の魔法であっても際限無く魔法を連発は出来ない。しかし魔法で岩を作り出すだけで射出しないのであれば、比較的に魔力消費は少ないみたいで連発して岩を落としてくる。
「後は、皆に任せるよ」
ウィスプ達とダーク、チェンの飛ぶ事が出来る空組が、ハーピーメイジに襲いかかる。
俺達が横穴を掘って逃げた事は知っている為、あえて岩峰の周りを飛ぶハーピーを狙う。ウィスプ達のサンダーボルトは、ストーンバレットよりも射程距離は長い為、距離を取り徐々にハーピー達を削って行く。ダークは縦横無尽に動き周り、チェンは挑発を繰返し誘き寄せる。
地上組はナレッジがリッター達の情報を集めて指示を出す。その声はベルによって、外のソースイやホーソン、ブロッサに伝えられる。
空組に攻撃しないような位置取りで、チェンが誘き寄せたハーピーメイジを狙い打ちする。霧での視界の悪さはクオンがフォローしている。そして、攻撃する度にこまめに場所を変え、ハーピー達に狙いを絞らせていない。
その間に俺達は、シェイドで穴を掘り進めて離れた場所に出口をつくっている。
『カショウ、ハーピーメイジの事を知ってたの?』
「何となく想像しただけで、知ってた訳じゃないよ」
『それって、何時から?』
「タカオの街が襲われた時からかな?」
『何で教えてくれないの?』
「確証は無いから、仕方ないだろ。それにハーピーの居る岩峰の頂上は少し盛り上がって見えるだろ。岩峰を登ってくる侵入者がいるなら、上から物を落とすのが常套手段だしな。だからこのエリアの岩峰の頂上と、向こうのエリアとは少し形が違って見えるんだよ」
ハーピーメイジが徐々に削られて、残るは岩肌にしがみつくメイジのみになった時、今まで離れて見ているだけだった、ハーピーロードが動き出す。