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精霊のジレンマ~古の記憶と世界の理~  作者: 三河三可
フタガの岩峰のハーピー
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第98話.ゲリラ戦④

 岩影からチェンが、フラフラっと飛び出す。ハーピー達が気付いても、チェンはしばらく気付かないフリをする。そして左右や上下にふらつきながら飛び、いかにも翅が損傷しているように演じている。


 トンボ族の中でも、高速に振動する4枚の翅の個々を微妙に調整出来る者は少なく、ふらついて飛ぶ演技は難易度が高い。


 ハーピー達には、手負いの蟲人は格好の獲物で、1体のハーピーがチェンに向けて動き出すと、先を越されてなるものかと他のハーピー達も動き出す。

 カショウ達との戦いの時も蟲人への執着を見せ、攻撃されるまでは無視しているという徹底ぶりだった。


 チェンは、ハーピー達が完全に食い付いた事を確認してから、気付いたふりをする。慌てて逃げようとするが、飛行が安定せずに蛇行したりバランスを崩し急激に落下する。

 ハーピーの群れを相手に1人で猛攻を耐え抜いた、不似合いな鎌を持ったトンボ族の事を知っていれば警戒する事は出来たはずだが、その不安定に飛ぶ姿を見て、このままでは獲物を霧の立ち込める地上に落としてしまうと、さらにハーピー達の速度が上がる。

 ここまで来れば、統制を取る事はもう不可能。ただ、全力で獲物を追いかける群れでしかない。


 先頭を飛ぶハーピーキャプテンとチェンとの距離が少しずつ縮まるが、チェンの飛ぶ高さも少しずつ下がってきている。

 地上に降りて霧の中を隠れようとしても、減速した瞬間に距離が詰まり捕まえれる。そう判断したハーピージェネラルは、初めて群れの先頭に出る。

 その瞬間、ハーピージェネラルに向かって矢が放たれる。だが矢はジェネラルの手前で失速し落ちて行く。攻撃範囲も分からず単発で終わる攻撃に、霧に隠れている何者かも大した技量ないと判断したジェネラルは、チェンを追いかける速度を上げる。


 しかし、チェンとの距離が縮まらないどころか、少しずつ引き離されて行く。気が付けば、綺麗な飛行姿勢を見せ、さっきの姿は嘘のよう・・・。


「グラビティ」


 聞いたことのない魔法。羽が思い通りに動かず、ジェネラル落下が始まる。あの矢は、ハーピー達が罠に掛かったことを知らせる合図。その意味に気付いても時すでに遅し。

 先頭を飛んでいた、ジェネラルとキャプテンがグラビティで地上へと落とされる。その衝撃で地上に漂っている霧が少しだけ晴れる。

 そこに見えたのは、細身ではあるが間違いなくドワーフと駆け寄ってくるオニの姿。

 地面に落ちたキャプテンの消滅が始まり、生きているのはジェネラルのみ。



 ソースイ達との合流地点を目指す。南から西エリアの岩峰からハーピー達が飛び立ち、こちらを目指しているのが見える。

 そして幾つかの塊に別れ、目指しているのはこちら側の結界のある岩峰なのは間違いない。その中でも1つの群れが、結界のある岩峰からそれて行く。


「上手く見つかってくれたみたいだな」


『この距離だと何とか間に合いそうね』


「大人しく待っててくれたらだけどな」


 ハーピー達が何かを追っているのは微かに分かる。それは間違いなくチェンの姿で、ゆっくりと高度を下げている。

 誘き寄せるだけなら、あそこまで高度を下げる必要はないし、高く飛んでいた方が俺達にも目印になるはず。


「やっぱり戦うみたいだな」


『戦わせて、大丈夫なの?』


「今のところは、誘き寄せてるから合格点じゃないか」


 そして、ハーピー達の先頭が急激に高度を下げる。おかしな挙動に霧を嫌うハーピーではあり得ない行動。


『あれ、明らかに墜ちたわよ?』


「そうだな、グラビティ使ったな」


 そして、残された上空のハーピー達が逃げ始める。統制が取れなくなって混乱して逃げ出したのか、それとも勝てないと判断して報告に戻ったのか?


「ナレッジ、逃げて行く中に上位種はいるか?」


「安心して、キャプテンが1体残ってるよ」


「それなら、3人の姿が見られてくれれば大丈夫そうだな」


 先行してウィスプ達がソースイの元に向かい、その中でも先行するルークの視界が俺の頭の中に映像として伝わってくる。

 チェンは霧から少しだけ上の位置で、他のハーピーの動きを観察している。地上には翼を壊され、趾を縛られてジェネラルが転がってて、それを挟み込むようにソースイとホーソンが立っている。キャプテンの姿は見えないので、生き残っているのはジェネラルのみ。


 ウィスプ達が到着し、俺の到着が近い事が分かると少しだけ残念そうな表情になる。


「全て見られているんだけどな」

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