第96話.ゲリラ戦②
シナジーの話では岩峰地帯は、大きく2つに分かれる。
北から東のエリアは、タカオとイスイの街を繋ぐ街道があり、道は険しいが霧が多く発生し、ハーピーから姿を隠す事が出来る。
南から西のエリアは、ヤベとイスイの街を繋ぐ街道があり、東側の街道と比べると道幅は広く整備されているが、霧は滅多に発生しない。この街道を通る隊商や旅人は、岩峰地帯を暗くなってから通るのが常識になっいる。
そしてハーピーは、南から西の岩峰に集まる。夜になり襲われる危険性を下げるため、日中でも霧の立ち込める北から東のエリアには巣を作らない。
また岩峰の頂上付近や崖の中腹の洞窟に巣を作り、いずれも簡単には近づけない場所にある。その中でもハーピークイーンは、1番高い岩峰に住んでいる。
そして今俺達がいるのは、霧のある北から東のエリア。夜になり岩峰の頂上に明かりが見えないかと心配したが、暗闇に包まれたままで少し安心する。
「このエリアには光の玉は無さそうだな」
「それじゃあ、どうしやすか?」
どちらのエリアにも聳える岩峰の数は6つずつ。そしてこのエリアの1番高い岩峰の結界は破壊し、ハーピー達が気付いた事までは分かっている。
本当ならもう少しハーピー達の行動パターンを調べたいところだけど、あまり時間の余裕はない。
「そうだな、気付かれにくい遠い所から破壊するか、気付きやすい近い所からにするか?」
『それなら、両方にしたら。今からなら2ヶ所くらい出来るでしょ!』
「簡単に言うよな、ムーアは」
『ハーピーの気を引いて確実に誘き寄せるなら、派手にやらないとダメでしょ。それに他の場所の結界は警戒されてるかもしれないわよ。その時は、また離れたこの場所まで戻ってくるの?』
「まあ、確かにそうなるな」
その言葉で、1番近くの岩峰に向かうことが決まる。ウィスプ達は明かりは強すぎるので、少数のリッター達が明かりとなる。また岩峰の地形を知り尽くしている霧の精霊達は、俺達の姿を隠しながらも結界のある岩峰へと誘導してくれる。
そして目の前に現れた岩峰。クオンの探知でもハーピー達の気配は感じられない。リズとリタの翼で少しずつ頂上を目指すが、それでも特に気配は感じることなく、そのまま頂上までたどり着く。
「ここまで気配がないのも不思議だな。少しくらいはハーピー達がいると思ったんだけどな」
『やっぱり、霧が影響しているのね。可能な限り接近されるリスクは避けたいんでしょう』
結界に対してあまりの無防備さに、それ程重要な存在ではないのかと思ってしまう。優先されるのは、結界より下位であってもハーピー達の命。
「これだけ無防備なら、結界を壊しても警戒されないかもしれないな」
『それは違うわ。いくら月明かりがあっても、夜に険しい岩峰を短時間で登れる人なんて少ないわよ。それに途中で明るくなったら、ハーピー達に襲われて終わりね』
「蟲人だったら出来るか?」
「あっしらも夜目は不得意で、難しいっすね」
「そうなると俺達が特殊になるのか」
『そうよ、だから一晩で複数の結界が破壊されれば、ハーピー達の受ける衝撃は大きいと思うわ』
「そうだな、確実にジェネラルクラスを引っ張り出すには、派手じゃないとダメだな」
そして1つ目の結界の破壊を始めようとするが、少し気になる。
「ワームが暴れ出し大きな音を出したら、流石に俺達の居場所は分かるよな」
『そうね、光の玉があればハーピー達が動き出す可能性はあるわね。そうなると何か都合が悪いの?』
「イスイの街に近い結界だから、犯人はイスイ側の者って思われると面白くないな」
『その可能性はあるわね。別の場所に変える?』
「少し厳しくなるけど、もう1つはタカオ側から近い結界にしよう」
最初の結界を破壊した時と同様に、穴を掘りブロッサの麻痺毒を流し込む。1度ワームを倒している事で、どれくらいの量で麻痺させられかは把握している。
精霊達の動きを縛る鎖はなるべく破壊したいので、ダークの操るマジックソードが鎖を切り刻み、石柱はフォリーのシェイドで粉々にする。
ソースイとホーソン、チェンはハーピー達から1番近い岩峰に向かわせ、俺達はタカオの街の出口へと向かう。ソースイ達の目的は、俺達がもう1つの結界の破壊に間に合わなかった時に、ソースイ達はハーピー達の意識を反らす。
あくまでも、イスイの街に意識が向かないようにする為の措置になる。
「間に合ったら、どうするんで?」
「その時は、ハーピーを引き連れてこい!」