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紫陽花  作者: 七星瓢虫
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[罪と罰]

ひと呼吸してから、百円ライターに火を点ける

鮮やかな黄赤、金赤色がかった白い、炎

眼底にちらちら揺れる、その炎を煙草に移すのも忘れ古手刑事は

ひっそりと見入る


所詮、この男は人殺しなんだよ

男の情状等、汲んでやる必要ないんだよ


所詮、業火に焼かれる運命なんだよ、と内なる声が言う


刹那、揺るぐ炎の中に男の姿を見た

案の定、業火の責め苦に苦悶の表情を浮かべ、古手刑事を見ている

足掻いて、藻掻いて

炎の中をのたうち回る男が、背中を向ける


その背中に、鬼が獅噛みついている

角も牙もなく唯唯、醜悪な形相の鬼が確と獅噛みついている

(そもそも)、それは鬼なのか

或いは、それは同じように地獄に落ちた、罪人なのか


それを背負いながら、男は

天上界から垂れる、仏の慈悲如き蜘蛛の糸を掴み取るかのように

腕を伸ばしたまま、古手刑事を振り返る


男の顔は紛れもなく古手刑事、その顔だ


束の間の白昼夢

一瞬、手にした百円ライターを放り投げそうになる

そうして古手刑事は思い、至る


ああ、これが自分の疚しさなのだ

刑事のくせに拱手傍観な態度でいる、これこそが自分の疚しさなのだ、と


だが、意気組みした所で、この男にどんな罰が与えられるのだ

捜査員達が、それこそ家庭を顧みず

犠牲にした結果、血眼で挙げたホシを大義名分の元、逃すのではないか


罪を憎んで人を憎まず


分かっている

分かっているが


目の前の不条理に条理等、意味がなくなる


人、一人の命を奪いながら死刑にならない世の中はどうかしている

人が人を裁く事の難しさを永永、問うのなら

犯した罪と、同等の罰を与えればいいのではないか


目には目を歯には歯を、ではない

目には目まで歯には歯まで、なのだ


その罪が、そのまま罰になるのであれば抑制になるのではないか

邪事を抱いても実行する者がいなくならないとしても、減るのではないのか


何より精神を理由に、年齢を理由に

犯した罪から逃れる者が、いなくなるのではないか


それじゃあ、駄目か

それじゃあ、駄目なのか


咥えたままだった、煙草を唇から引き剥がし

古手刑事は腐る思いで、右側の蟀谷辺りを掻き毟る


そう単純な話し、簡単な話しじゃない事は分かっている

唯、噛み砕けないモノは飲み込めない


飲み込めないモノは口腔の水分を吸収して

見る見るうちに、一杯に膨れ上がる


そうなるともう、噎せ込む前に吐き出すしかない

そうしてもう、二度と口にしようとは思わない


そうしないとやっていけない

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